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「あー、いたいた」
「……見つかったかい?」
「さっき、倒れていた所をカエリアが見つけたようですよ」
「そう」

 緊張感が周囲を支配する中、情報を手に近付いてきたクラルに頷く。火が踊る城を見上げながら、小さく息をついた。
 これで、終わりだ。何もかも全て。あの子を苦しめていた奴等はすべて捕えた。何の為にか一人城の中に残っていた英雄も、どうやら捕まえることができたらしい。
 火が完全に回る前に見つけられたのは良かった。敵とはいえ、子供を焼き殺す趣味は無いし、何よりそんな死に方をさせたらジンくんが知ったときに悲しむだろう。

「さて、炙り出しは終わったから、消火に入ろうか」
「……主人様はそろそろ帰った方がいいんじゃないですか?」
「いや。戦いは終わったけれど、まだやることは山積みだからね」

 クラルの言いたいことは何となくわかっている。きっと残してきたジンくんのことを、彼なりに心配しているのだろう。
 不安にしているだろうジンくんの元に一刻も早く戻りたいと思っているのは確かだけれど、それでも僕一人が戻るわけにはいかない。戻ったとしても事が終わってないと知ったら、自分のせいでと口にするだろう。

「まぁ、いいですけどー。それで、捕まえたはいいですけど、アレ、どうするんですか?」
「うん。処遇についてはある程度決めてあるよ」
「……ならいいです」
「見逃すと思った?」
「いえ、まったく」

 首を横に振って否定するクラルに、だろうね、と笑って返す。処遇についてはジンくんには秘密にするつもりだ。決して誰も漏らさない様に手を回して、ジンくんには『城では彼は死ななかった』とだけ伝える。それは本当のことだし、運び出されたのは幾人かが見ているはずだから最悪、『生存していること』の証人はできたはず。
 我ながらに公私混同し過ぎていると思う。しかし、生きているという事実があればジンくんの心の負担は少ない。

「さぁ、クラル。カエリア達の元に行こうか」
「はいよー」


* * * * *


「さぁ、クラル。カエリア達の元に行こうか」
「はいよー」

 カエリア達がいる陣営に戻る主人の後を三歩程遅れて歩く。その背中を眺めながら『火を放て』と言った主人の言葉を思い出した。
 その言葉を聞いた時、さすがにやり過ぎではないのか、と進言しようかと思ったのは多分俺だけではないはずだ。確かに元々敵で、しかもジン君を追い詰めた相手だ。
 けれど、今まで主人がそこまでしたことがあったかと記憶を探るも見つからない。これが、初めてだ。
 主人の様子では死人を出すつもりはなかったようだけど、それではこの後、彼らをどう処断するのか。

「どうかしたかい?」
「あー、いえ。ちょっと考え事を」
「降伏したとはいえ、まだ敵が残っている可能性がある。あまり気を散らさないほうがいい」
「……りょーかいです」

 軽く返事をすれば「気を付けてね」と、また前を向いて歩き始めた。それを今度は周囲に気を配りながらついていく。
 ――仕え始めてから、そう時間は経っていないが、その俺から見ても主人は前とは変わったと思う。一言で言うのなら『甘くなった』。けれど、それと同時に一つ一つの決断が鋭くなった。前のように切って捨てるだけではなく、それさえも利用するようになったのだ。
 そしてそれら黒い部分はすべて隠し、綺麗なものだけをジン君に見せている。手際良く片付けるその姿に、器用なものだと感心した。

(でも、ジン君は綺麗なものだけ、っていうのは望んでないと思うんだよなぁ)

 まぁそれでもきっと、これから英雄たちに起こることを、俺も含めて全員、ジン君に話すことはないだろう。
 そう、伝えるのは『死んではいない』ことだけだ。


end

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