3

 後悔をしてる間にもクラルの小芝居は続く。段々と興が乗ってきたのか、クラルはあろうことか扉を開けて僕の背中を押して厨房の中へと押し込んだ。

「……え、リズ?」
「リーズヴァルド様?それにクラル様も。なにか御用でしょうか?」
「や、やぁ……」
「ジン君、料理長。主人様が聞きたいことがあるってー」

 辛うじて倒れるのを踏みとどまった先には、きょとんとした様子のジンくんと料理長。居心地悪く苦笑いで返事を返すと、背後にいるクラルを振り返った。
 さぁどうぞ、というように開いた扉を押さえたまま、にこやかに笑むそれには悪戯心しか感じられず思わず拳を握る。

「?ええと、リズ?」
「すまない。なんでもないん「あれ、聞かないんですかぁ?」

 不思議そうなジンくんになんでもないと断ろうとするも、愉しい事が好きなクラルがそれをさせるはずもなく。言葉に窮すると、厨房に入ってきたクラルはまぁまぁ、と料理長の肩を叩いた。

「……なんでしょうか?」
「うんうん。まぁぶっちゃけた事を言えば、君はジンくんの「あの」

 愉しげに笑うクラルに、料理長は何を思ったのか優しげな面立ちに厳しい表情を浮かべ、肩に触れていた手をやんわりとした動作で退けた。

「大変申し訳ありませんが、今はジン様にとっての正念場なのです。ここを乗り越えればどこに嫁いでも……いえ、嫁ぎ先はリーズヴァルド様のもとしかありえませんので、そう睨まないで下さい。……そういうわけですので、お二方にこのようなことを言うのはとても心苦しいのですが、はっきりと言わせて頂きましょう」

 嫁ぐ、という言葉に思わず反応すると、料理長はため息をつきつつ言葉を続けた。

「邪魔なので今すぐお帰りください」

 お帰りはあちらです、とご丁寧に今入ってきた扉を示してはっきりとした拒絶の姿勢。

「……帰るぞ、クラル」
「……りょーかいっす」

 元よりジンくんのことが気になって入ろうとしていたし、この分ならまったく持って平気だろう。

「ジンくん、また後でね」
「う、うん!ごめんなさい、終わったらすぐに戻るから!」

 ジンくんに手を振ってから、言い返されたことにぽかんとアホ面を曝していたクラルの襟元を引いて、厨房を後にした。

(それにしても、重症だな……。たった一人の人間の為にこんなに右往左往するなんて、昔の僕なら考えられなかったよ)

「……嫉妬するなんて、やっぱり僕も変わったな」
「なんか言いましたー?」
「いや、何も?」


end

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