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 そんな風に少し感傷に浸りながらカエリアに「最近、ジンくんがなにをしているのか知っているか?」と尋ねた。だが、その返事は「知りません」の一言だけであった。

「確かに、最近なにかをしているようですが……。料理長に聞いてみてはいかがでしょうか?」
「料理長?」
「はい。厨房に入っていくのを何度か見かけているのでしたら、もしかしたら何か知っているかもしれませんよ」
「……それもそうだね」

 何故そのことに気がつかなかったのか。自分自身、厨房にジンくんが入っていくのを見ている。尋ねるのならばカエリアではなく、料理長だろうことはすぐに気がつくべきであった。

「……後で、聞きに行ってみるよ」

 どれだけ焦っていたのかが、今の状態でわかるだろう。常に冷静でいられるように心掛け、かつどのような事にも同様しないことを自負していた僕がこんなにも変わるとは、自分でも不思議なほどだ。

「ところで主様」
「なんだい?」
「次の休みに、ジンくんとエリシャとで遠出をしたいのですが許可を頂けませんか?」
「僕が同伴なら可」
「主様は残ってください」

* * * * *


 ようやく書類の山から解放され、一目散に厨房に向かうと丁度いいところにジンくんが反対側から歩いてきた。
 なんとなく顔を合わせるのが戸惑われて、曲がり角に身を潜ませてそのまま厨房に入るのを見送る。扉が閉められたのを確認すると、厨房に通じる扉の前に立った。
 今選べるのは二択だ。このまま戻ってジンくんが教えてくれるのを待つか、扉に耳を宛ててなかの様子を探るか。どちらにしても胸の内が晴れるわけではなさそうだが、さてどうするべきだろう。
 決めかねていると、ジンくんが来た方向から呑気な鼻歌が聞こえてきた。

「クラル」
「主人様、こんなとこで何してるんで?」
「今人生最大の困難に立ち向かっているところなんだよ」
「……?」

 真面目に答えれば首をかしげたあとに、「何かあったんですかー?」と先ほどの鼻歌と同様に気の抜けた問いかけ。それに手短に答えると、愉しげに口許を吊り上げた。

「ほー。なるほどなるほど。つまりはアレですね。主人様は浮気を心配をしてるんですね」
「心配はしているけれど、浮気については微塵も心配してないよ」
「いや、まさか料理長がお相手とは」
「……クラル、いい加減にしなよ」
「いやいやいや、まさかのまさか」

 芝居がかった大袈裟な仕草で困った困った、と笑うクラルに、話す相手を間違えた事に今更ながらに気がつき深くため息が出てしまう。

「さぁ主人様。こんなとこ迷っている場合ではないですよ。乗り込むなら今!真相を暴いて来てくださいなぁ」
「っ、おいクラル!」

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