はじめて知った感情は

 どうにも最近、ジンくんの様子がおかしい。一昨日は部屋に戻ってくるのが遅くて戻って来てもそわそわとした様子で僕の話に上の空。その前は部屋に戻ると、慌てた様子で何かを隠された。その都度尋ねてみてもそれとなくはぐらかされてしまって、どうにもわからない。
 そして昨日。挙動不審ではあったけれど甘えてきた彼を抱きしめると、ふわりと甘い香りがした。ジンくんは甘いものが好物ではあるが、香りを纏わせるまで好むということはなかったはずだ。そういえば、昨日は調理場付近で見かけたような気がする。
 調理場でお菓子か何かを貰っているのだろうか?でもそうしたらきっと僕に言ってくる。どういうことだろうか。

「……主様?何してるんですか?」

 思い返していると、ふと訝しそうな声が。顔を上げると変なものを見た様な表情でこちら見るカエリアがいた。何事かと首を傾げるが視線が僕の手元にあることに気付き、ふと視線を落とす。
 先程までペンで書きいれていた書類。だがそこには何故か先日、ジンくんに教えて貰った”ニホンゴ”というもので書き加えられたジンくんの名前。それも一つだけではなく、欄という欄に記入されていた。

「……おや?」
「ソレ、最初からやり直しですよ」
「みたいだね。書き直さないと」
「なんでそんなに軽いんですか。どう見ても色々と重症でしょう」

 ため息をつくとカエリアは手に持っていた紙の束を机の上に置いた。カエリアはジンくんが来てから表情というか言動が豊かになったな。几帳面な性格はそのままだけれど、雰囲気が柔らかくなってきている。エリシャやクラル、サエラもそうだ。それぞれ違うけれども、少しずつ変わっていっている。

「主様、現実逃避は如何なものかと」
「……うん、本当に変わったね」

 少しの感動に浸っていると、鋭い矢のように尖った言葉を投げられた。昔のほうが良かったとは思わないが、カエリアは最近、特にジンくんが関わることには敏感になってきている。
 以前は兄弟のようなやり取りをする二人を微笑ましく思っていたが、時折、無性に一言だけでも言ってやりたくなるのは仕方ないと思いたい。

「カエリア」
「はい?」
「……少し聞きたいことがあるんだ」

 だけど、そんなカエリアだからこそ、もしかしたらジンくんがなにを隠しているのかを知っているかもしれない。ジンくんは悲しいことや困っていることがあると、あれから幾月か経った今でも隠してしまおうとするから。

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