「教えてよセンセー」

 例えば、喉から手が出る程に欲しいものがあるとする。僕はきっと何をしたとしても、それを手にしようとするだろう。
 僕自身の性格はある程度理解してるつもりだから、これはかならず、だと思う。思っていた。
 だから、こんなにまで躊躇してる自分にびっくりだ。

「おい、結城。聞いてるか?」
「あ、……すみません」

 聞いてませんでした。苦笑を浮かべて謝れば珍しいなと、少し乱暴に頭を撫でられる。
 うん、少し痛いけど悪くはないな。

「寝不足か?なんだ、勉強でもしてたのか?」
「……まぁ、」

 ぶっちゃけ貴方の事で悩んでました。なんて言えるわけがない。
 曖昧に濁して、隣に並んで座ってる先生にため息をつきたくなる。
 僕のことは眼中にないからか。それともただたんに男に興味がないだけかはわからないけど、無防備に弁当を食べる彼は僕の頭を悩ませてる元凶だ。

「悩みがあるなら聞くぞ?」
「悩み……」
「ん、いつも授業の後片付けを手伝ってもらってるしな。相談ならいくらでものってやる」

 気付けば貴方の事で悩んでしまうんです。授業中も休み時間も寝る時にも。僕の中は貴方で一杯なんですよ。
 なんて言ったら、どんな反応をするかな。見てみたい気もするけど、少し怖いかもしれない。
 もし、拒絶の反応を示された場合は笑い話にしようか?そうすればもう少しだけそばにいられる。
 でも、耐えられる?ムリ。そばにいるだけ、なんていうのは出来ないに決まってる。
 きっと暴走して先生を傷付ける。そんなことになるくらいなら、自分が傷付いたほうがマシ。

「じゃあ、少し聞いてもらえますか?」
「ん、俺でいいなら聞くぞ」

 それとも、いっそ僕に堕としてやろう。僕なしには生きていけない程に。
 強引だろうがなんだろうが、躊躇してる僕よりは僕らしいよね。
 だから、さ。

「先生を見てると、胸が痛くなるんです。どうしてでしょうか?」

「教えて下さい、先生」

 ぽかんとした表情の先生が、顔を真っ赤にさせるのは数秒後。
 そして俺がそのままの勢いで襲うのは数分後。
 それから、先生の答えを聞けたのは数時間後。

 ――うん、何事も勢いって大切だよな。

 そんな風に先生の腕の中、これまでに感じた事のない幸せに浸ってみた。


end


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