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真意が計り知れず見下ろしていれば、ふいに繋いでいた手に力がこもった。その顔には軽薄とも微笑とも取れる笑みが浮かぶ。
「何、簡単なことだ。ある情報を集めてこい」
「情報?それなら、専門の人たちがいるじゃないか」
「まぁな。だが、コレに関してはお前が適任だ」
「……どういう意味?」
眉を寄せて詰問するように低く下がった声で問えば、義父の視線が受け取ったばかりの伝記に移った。追うようにその本を見て、一つの可能性に気が付く。
「……ああ、なるほど。『異界の子』が来たんだね?」
「当たりだ。つい昨日、王都の聖域に召喚されたらしい」
「へぇ、それはどうして?」
「わかってんだろ?」
意地悪く笑えば、ニヤリと同種の笑みが返される。
――『異界の子』というのは、いわゆる『救世主』のことだ。何百年か前に召喚されたアロイスもそう。名前からして、ドイツやヨーロッパあたりの子供のはずだ。本には異界の子は総じて金の髪に青い瞳、誰からも好かれる容姿と清らかな心を持っているらしいと書かれている。
「それなら僕がいくべきだよね」
「だろ?まぁ頑張れや、ヨウ」
悪役のような笑みにため息一つ。この状況を、義父は楽しんでいるんだろう。全く手に負えない。
血が繋がっていないとは言え、養子に取った義息に対する思いやりはないのかと小一時間問い詰めたいが、そんな場合じゃないだろう。
「連れていくのはカーティスだけ?」
「ああ。今回はできるだけ少人数で行った方がいいだろ」
「わかった」
準備を早めにして出発は明日の朝一にしよう。それまでにやることはたくさんある。まずはカーティスに説明をして、それから旅支度をしなければいけない。
「用意を整えてから明日出発する」
「それがいいだろうな」
頷いたのを確認すると、繋いでいた手を離してベッドから立ち上がった。一度視線を義父にやって、特に何も言われないようなのでそのまま廊下に出る。
「カーティス、」
「んー?終わった?」
廊下に出れば僕が出てくるのを待っていたのか、カーティスがいた。先ほど義父が言っていたように廊下に弾丸を並べて数えていたようだ。
「明日、王都に行くから」
「誰が?」
「僕とお前」
「俺?」
「うん」
「なら早めに用意しないとー」
こういう時のカーティスは話が早い。綺麗に列をなした弾を麻袋に雑な手つきで放り入れていくのを眺めながら、きっと面倒なことになるのだろうと考える。
『異界の子』と言うのは基本的に王都の聖域に現れるのが常だ。ただし、聖域以外にも他の世界から子供が現れる時がある。しかし、この場合『救世主』として扱われずに『異端』として烙印を押されてしまう。
なんでも聖域に現れた子は清らかで、それ以外の場所に現れた子は卑しい子などと昔のお偉いさんが決めたらしい。
この話を聞いた当時は馬鹿らしいと思っていたが、この世界の人々は『奇跡的』なことを信じるタイプの人間ばかりだ。それが常識として通ってしまったばかりに、聖域でない場に好きでもなく召喚された僕は危うく殺されかけた。