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 夢現つ。そんな言葉がぴったりだと思う。ふわふわとした感覚で認識したのは、手を握る暖かさだった。

「……ん?」
「おう、やっと起きたか」

 ぼんやりと目を開けると、隣にはベッドに肘をついて並ぶように横たわる自分が義父(ちち)と呼ぶ相手。紅い髪を肩あたりから垂らして三十路とは思えないような、見た目は女性受けする妖艶さを醸し出している。
 だがしかし。ここにいるのは俺なわけで。

「……何のようだったの」
「あのな。『おはよう』だろうが」
「オハヨ。そんな時間じゃないけど」
「おう、起きろ」
「んー」

 促されて起き上がる。眠気が去っていないのか霞む頭をぶるぶると振った。そうするとようやく頭の中がクリアになる。

「カーティスがドアの前で弾丸の数を数えてたが、ありゃお前がやれって言ったのか?」
「いや?違うけど……なんだ、結構時間が経ってんだな」

 何やってんだあいつは。呆れながら、カーティスが弾丸と食料を買いに行って戻ってくるまでずっと眠っていた自分にも驚いた。

「おら、土産な」
「ありがと。コレは何?」

 僕には起きろと言ったのに自分は横たわったまま、繋いでいない方の手でぽいっと膝に投げられたのは古い本だった。皮張りで表紙は金色の文字でタイトルが書かれている。どう見ても、ある程度の値段がする本だ。

「『Aloys』だってよ」
「アロイス?確か何百年か前に世界を救ったっていう人だよね?」
「ああ。そいつの伝記だ」
「ふぅん、なんで今更。アロイスの話なら絵本だの物語集だので、結構読んでると思うけど」
「ふん、ああいうのは誇張が激しい。まぁ、後世に伝える為にはまず子供に興味を持たせねぇといけないからな。それも仕方がない話だ」

 ガキは誇張された話が好きだからな。などと身も蓋もないその言葉にまぁね、と頷いておく。様子からして、どうやら呼び出された件はこれに関係があるらしい。

「で?」
「そう急くんじゃねぇ。まだ時間に余裕がある」
「……時間?」

 引っ掛かりを覚えて眉を寄せると、「勘がいいな」と満足そうに笑う義父。意味がわからない。

「お前とカーティス、二人で王都まで使いに行ってこい」
「……はぁ?ここから何キロあると思ってんだ」
「二日もありゃ着くだろ。何とかしろ」
「何とかしろって……」

 他人事だと言うような言い方に、呆然とした。まだ読まなければいけない本や処理するべき書類もある。それを放置して使いに行けとはどういうことか。

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