はじまりの、その日

 暴れるカーティスの襟を引っ張りながら、彼の部屋の前に立つ。
 この部屋の中には、自分を拾った本人がいる訳だが指定された時間から少しオーバーする為、なんとなく入りずらい雰囲気だ。だがしかし、今の僕の手にはカーティスという生け贄がいる。まぁ、なんとかなるだろうと検討をつけて、ドアを開けた。
 入った瞬間に目に入るのは大きなキングサイズのベッド、それからイス。その他には人の気配も何もなかった。

「カーティス、いないんだけど?」
「いないねぇ……」

 どう考えても来るのが遅かったからだ。あの人は短気なんだぞ、どうしてくれようこのバカは。

「カーティス」
「ん?」
「一発殴らせて」
「お安い御用!」
「やっぱ止めた」
「えー!」

 僕の言葉に瞬時に目を光らせたカーティスに、振り上げた拳を押さえた。そうだった。殴ってもコイツを喜ばせるだけだと思い出して、襟を掴んでいた手を放す。
 途端に残念そうに抗議の声をあげたチャラ男に、いらっとしたけどそこは大人になって(カーティスの方がどう見ても年上だけど)、大きく息をつくだけで我慢した。

「……探しに行くよりは待ってた方がいいね。カーティスはこの後何かある?」
「ん?俺ぇ?ええと……あ、食料と弾薬の買い出し!」
「そ。じゃバイバイ」
「うわっ!」

 思いだしたというように手を打ったカーティスを、そのままドアの向こう。つまりは廊下へと放り出した。きょとんとした表情のまま固まるソレに構わず、ドアを閉まる。
 うん、買い物があるカーティスを気遣うなんて、僕って優しい。

「さて、じゃあ待ってるかな」

 ドアの向こうから聞こえる情けない声を無視して、部屋を見渡す。
 この主のいない部屋。その中を好き勝手に歩けるのはこの商団の中では一握りらしい。その一握りの中に入っている(入らされた)僕は、そのままベッドに直行した。
 眠りたくなったわけではなく、ただ単に座れる場所がここしかないからだ。椅子はあの人専用だから勝手に座ったら何されるかわかったもんじゃない。
 この間、不可抗力とはいえあの人の私物を触ってしまった時があった。

「あれはひどかった」

 ベッドに転がされたと思ったらそのまま押さえつけられて、身体中の至る所をくすぐられまくった。アルダーが止めなかったら確実に笑い死にしてたと思う。

「……ふむ」

 ――さて、義父さんは何を企んでいるんだろうか。

 そんな旗から見たら失礼極まりないことを考えながら、とりあえず戻ってくるまで、とベッドで眠りについた。

[←前へ 戻る 次へ→]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -