▼ イッポテマエノカンジョウ
一つ思った。
「俺、どこに寝ればいい?」
「あ」
考えてなかったのか。後ろを軽く振り返れば苦笑を浮かべた御門さん。
「む、どーしようか。客用の布団は無いし……」
わしゃわしゃと髪を拭く手を止めずに呟く。今はベッドに座った御門さんの足の間、後ろから抱えられるカタチで座ってる。
風呂をあがった後、濡れた髪を交代で拭いていた。
「んー。なら、布団もってくるよ。それ敷いたら「ダメ」
提案が一瞬で却下されました。あっとゆーまでした。
「一緒に寝よう?つめればいいし、ね?」
ね?って首を傾げられても、寝るのは風呂ん時みたいにはいかないと思います。
「でも、男二人でシングルはきついだろ。絶対落ちるって」
痛いのは嫌。朝起きて下に落ちてたとか間抜けじゃん。
「落ちなければいいの?」
「まぁ……」
「他にも突っ込みどころたくさんあったんだけど」
「へ?」
どこに?きょとんとしてれば、はぁー、なんてでっかいため息つかれた。いやいや、何で?
「ごめん、なんでもないよ」
御門さんの袖を引っ張れば苦笑を返されて、ぽん、と頭を撫でられる。その手が気持ちよくてぼぅっと御門さんを見上げてたら、ふいに視界が暗くなった。あれ?
「御門さん?」
「何?」
「いや、何?じゃなくて。真っ暗なんですが」
「真っ暗にしてるからね」
してるからね、じゃないっしょ。手ぇ離してくださいって。
何を言っても無駄な気がしたから、無言で訴えてみよう作戦。目を覆った御門さんの手の甲をぺしぺしとたたいて、ちょっとした抵抗。
「もう少しだけだから、じっとして?」
叩いていた手を押さえられて、ぎゅうと抱き締められた。
うーわー。はずい。けっっこーはずいっ!首からなんから、全部が赤くなってるのがわかるから嫌だ。それを御門さんに気付かれるのはもっと嫌。心臓が緊張のせいか、うるさく鼓動してる。
「み、かどさ……」
「うん、あったかいね」
「いや、えと、その」
お、俺が言いたいのはそんな事じゃなくてっ!確かにぬくいですけどーっ!!俺の心臓が持ちませんっ!
「ね、千里くん。一緒に寝よ?」
耳元で、今まで聞いたことのない声で囁かれてぞわり、と背筋が泡だった。
気持ち悪いとかそんなんじゃなくて、得体の知れない、もっと身体の奥から沸き上がってくるもの。
「ね?」
「あー、もうっ!寝る寝ますっ!一緒に寝ればいいんだろっ!」
それらを全部、振り切るように叫んだ。
end