イッポテマエノカンジョウ

 一つ思った。

「俺、どこに寝ればいい?」
「あ」

 考えてなかったのか。後ろを軽く振り返れば苦笑を浮かべた御門さん。

「む、どーしようか。客用の布団は無いし……」

 わしゃわしゃと髪を拭く手を止めずに呟く。今はベッドに座った御門さんの足の間、後ろから抱えられるカタチで座ってる。
 風呂をあがった後、濡れた髪を交代で拭いていた。

「んー。なら、布団もってくるよ。それ敷いたら「ダメ」

 提案が一瞬で却下されました。あっとゆーまでした。

「一緒に寝よう?つめればいいし、ね?」

 ね?って首を傾げられても、寝るのは風呂ん時みたいにはいかないと思います。

「でも、男二人でシングルはきついだろ。絶対落ちるって」

 痛いのは嫌。朝起きて下に落ちてたとか間抜けじゃん。

「落ちなければいいの?」
「まぁ……」
「他にも突っ込みどころたくさんあったんだけど」
「へ?」

 どこに?きょとんとしてれば、はぁー、なんてでっかいため息つかれた。いやいや、何で?

「ごめん、なんでもないよ」

 御門さんの袖を引っ張れば苦笑を返されて、ぽん、と頭を撫でられる。その手が気持ちよくてぼぅっと御門さんを見上げてたら、ふいに視界が暗くなった。あれ?

「御門さん?」
「何?」
「いや、何?じゃなくて。真っ暗なんですが」
「真っ暗にしてるからね」

 してるからね、じゃないっしょ。手ぇ離してくださいって。
 何を言っても無駄な気がしたから、無言で訴えてみよう作戦。目を覆った御門さんの手の甲をぺしぺしとたたいて、ちょっとした抵抗。

「もう少しだけだから、じっとして?」

 叩いていた手を押さえられて、ぎゅうと抱き締められた。
 うーわー。はずい。けっっこーはずいっ!首からなんから、全部が赤くなってるのがわかるから嫌だ。それを御門さんに気付かれるのはもっと嫌。心臓が緊張のせいか、うるさく鼓動してる。

「み、かどさ……」
「うん、あったかいね」
「いや、えと、その」

 お、俺が言いたいのはそんな事じゃなくてっ!確かにぬくいですけどーっ!!俺の心臓が持ちませんっ!

「ね、千里くん。一緒に寝よ?」

 耳元で、今まで聞いたことのない声で囁かれてぞわり、と背筋が泡だった。
 気持ち悪いとかそんなんじゃなくて、得体の知れない、もっと身体の奥から沸き上がってくるもの。

「ね?」
「あー、もうっ!寝る寝ますっ!一緒に寝ればいいんだろっ!」

 それらを全部、振り切るように叫んだ。


end

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