▼ ハジマリノオハナシ
辺りには蝉の鳴き声。
夏特有のソレは、少しばかり耳障りで、あまり好めるようなものではない。
特に、今のように暑い中大きな荷物を肩に地図を見ている時は。
「……ココを、左……真っすぐいって、突き当たりを右?」
乱雑に簡略化された地図の道と、目の前に続く道を照らしあわせながら歩く。
時折、その紙に書かれた目印と間違ってはいないかを確認しながら。
「コンビニがあるから、そこの角を曲がって……」
言葉に出しながら、そのとおりにコンビニの角を曲がり顔をあげる。
「……ここか」
額に浮いた汗を拭って、視線をあげた先には、淡い色の小さな、アパートが建っていた。
end