崩れた感情

 真白の様子がおかしい。
 昨日は普通だったはずなのに、今日は全然俺や綴の顔を見ない。困ったように下をむいているだけ。
 授業中もぼんやりとしながら窓の外を見てるし、元気がない、というか悩んでる感じがする。

「なー、真白ー」
「……うん、」
「……聞いてないだろ?」
「……うん、」

 ほら、全然俺の話を聞いてないし。声に反応して相づちを打つだけで、他には何も反応がない。
 なんだろ。何が真白にあった?俺のいないうちに、何が起こった?
 綴に聞いてもわからないの一言。なんだそれ。それでも真白の『狗』なのか。
 俺、が、俺が真白の『狗』だったら絶対に真白にこんな顔させないのに。

――ムカつく。

 なんでアイツが真白の『狗』なんだ。


「――……き、紫!」
「え、あ?」

 いつの間にか自分の思考に堕ちていたらしく、気付けばさっきまでぼんやりとしていた真白が俺の顔を覗き込んでた。

「教室、移動みたいだよ。行こ?」
「……ああ、うん」

 適当にノートや教科書を引っ張りだして、真白と一緒に教室を出る。
 歩きながらちらちらと真白を見て、いくつか言葉を交わす。朝よりは真白からの答えがあって、それだけで気分があがった。

「んーとね、やっぱりダメーとか言いながらー」
「あー、それで落ちちゃったんだ」
「そうそう。アレはむしろこっちがダメー、だよね」

 他愛ない会話を楽しみながら、別棟へ続く渡り廊下を歩いていると前のほうから見覚えのある顔。
 あまり仲が良いとは言えないから声なんかかけないけど。
 なんとなく真白をそいつから離したくて、廊下の脇へとやろうと真白のほうを見て。

「……真白?」

 驚いたように目を丸くさせて、じ、と視線を注がれているのは、先ほどの水色頭。向こうは真白を見て口の端をあげただけで、そのまま通り過ぎていった。

――どういう事、だ?

 真白とアイツは知り合いじゃないはず。どうして真白は驚いていて、アイツは笑った?
 わけがわからなくて、思わず真白の腕をつかむ。

「真白、真白?ねぇ、何があった?アイツに何かされたの?何でそんなに驚いてるわけ?ねぇ、」

 固まったままの真白の顔を覗き込む。すると、驚きの表情から徐々に苦しげなものになり、泣きそうに、歪んだ。

 ――でも一つ、わかった。真白が悩んでる理由は、アイツだ。


 崩れた感情

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