情報部副部長の不安

「見て見てっ!不良風紀委員長×美人副委員長の素でラブラブスチルー」
「良かったねー、ずっと欲しいって言ってたもんねー?」

 携帯の画面を向けながら、ほくほくとした表情で抱きついてきた夏目の頭を撫でる。気持ちよさそうに目を細める姿はにゃんこにそっくりだ。

「ちーちゃん、でも気をつけてね?」
「わかってるって。委員長は怒らしたら鬼だからな。ほどほどにする」
「そーじゃなくてー、なんだっけ?ちーちゃんの言う王道くん?には近づいちゃダメー。委員長は副委員長が止めるし、無問題なんよー」
「えぇー、萌萌スチルいっぱい撮りたいのに…」
「盗撮だけで我慢しー」

 ぎゅぎゅ、と夏目の体を抱き締めて額に唇を押しあてると「仕方ないなぁ」と言ってくれた。
 でもやっぱり心配。夏目はめちゃくちゃ可愛いし、案外お人好しだからきっと友達になろう!とか言われたら了承しちゃう。ダメだよ。それは絶対にダメ。
 アレに夏目は近づいちゃいけない。
 実は夏目には言ってないけど、あの王道くんには一回会った。道を聞かれただけだけど、その、ほんの数分でアレはオレの中の闇を見透かした。
 土足で踏み込んだ。ぐちゃぐちゃに荒らした。許せる範囲ではない程、オレという存在を否定した。
 だから、アレに関わったら何が起こるかなんて容易に想像はつかないけど、嫌な事しか思い浮かばない。

「な、春穂」
「……うん、なぁに?」
「後で写真撮らして」
「いいよ、ちーちゃんとのちゅー写真なら」

 にっこり笑ってえー、なんて非難の声をあげる口を自分の口で閉ざした。

 夏目、夏目。お願いだからアレに近づかないで。オレが何でもしてあげる。どんな事もしてあげるから。
 その願いは、音にはならずオレの中で消えた。


end

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