委員長の喜劇

 唐突だけれど、俺はコイツを気に入っている。コイツ、って言うのは我らが風紀の副委員長だ。
 いつもいつも、無表情を顔に貼りつけているソイツは時折、ふとした瞬間に表情が表に出る。その表情がたまらない。少しの欲さえも産まれる程だ。
 だからたまに、本当にたまに無表情からそれ以外の顔を引き摺りだしたくて仕掛けてみる。まぁ、そのたびに怒られたり殴られたり蹴られたりするんだが。
 うまくいけば、とてつもなく低い確立で笑顔を見る事ができる。実はそれが見たいがためにやっているんだが、九割がたうまくいかない。何とも難しいところだ。

「……とまぁ、こんなとこですね」
「そうか。補佐が泣き付いてくるくらいだから、面倒な状態だとは思っていたが……本当に面倒な事になってんな」
「まったくです。冬樹でさえ仕事はきちんと終わらせるのに……」
「ちょっと待て、どういう意味だオイ」

 ソファーに隣に並んで座りながら、俺が淹れてやった茶を飲む。
 生徒会がどんだけ活動状態が麻痺してるかを確認にやってから数時間後、不機嫌面で戻ってきたコイツを宥めるのに数十分。いつもの調子に戻った秋月の報告は、頭を悩ませるもので。
 馬鹿だ間抜けだと思っていたが、バ会長は本当にバ会長だったらしい。あんなブロッコリーもどきのドコがいいんだ。理解に苦しむ。他の生徒会の奴らもそうだ。揃いも揃って仕事を増やすアホばかりだ。

「それで、転校生ですが」
「あ?ああ、ブロッコリーか」
「…………転校生ですが、話の通じる相手ではなかったので、とりあえずどれだけの迷惑をこちらが被っているかだけ懇切丁寧に説明してきました」

 懇切丁寧。コイツの言う懇切丁寧は確かに丁寧と言うか、わかりやすい。遠回しに相手に伝えるのではなく、簡潔に本当にあった事だけを話してきたんだろう。
 その光景が簡単に想像できてしまい、なんとも言い難い。

「生徒会の方々には書類の片付けを行うように言いましたが、やるかどうかは……少し不安ですね」
「やらなきゃやらないで困るのはアイツ等だ。知ったこっちゃねーよ」
「きっと俺達にその分が回ってきますよ」
「そしたらアイツ等の目の前で、アイツ等が完成させた書類を全部窓からばらまいてやる」
「……どんな嫌がらせですか」

 にぃ、と笑えば呆れたように言うと秋月は茶をすすって、見せ付けるように大げさにため息をついた。

「まぁ、冬樹の頼みであれば書類だろうと何だろうとばらまきますけどね」

 ああ、だからコイツは手放せないんだ。時々こうやって、秋月は俺を何もかもより優先させる時がある。
 その時にこの俺が優越感を感じている事を、コイツは知らない。身体の奥から這いあがるあの感覚は、快楽にも近いと理解している。

「俺は愛されてるなぁ?」
「……そうですね」
「感情がこもってねぇよ」

 わしゃわしゃと頭を撫でればやめてください、と小さく声がしたが止める気はまったくない。

「秋月。これからきっと、楽しくなるぜ」
「嬉しくない……」

 迷惑極まりないと顔をしかめた秋月に笑い掛けた。
 あの変態が言っていた未来予想は本当に面倒だと思っていたが、秋月が関わるなら楽しさを感じる。
 ――まぁ、秋月をからかう以上の楽しさではないが。


end

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