副委員長の憂鬱

 唐突だけれど、目の前の人達の頭を一度かち割り中を見てみたい。きっと南国パラダイスのごとく花畑に違いない。
 そう思うほどに僕は怒っていた。むしろキレていた。

「瑞樹くん、お茶はいるかい?」
「瑞樹、ソファーなんて座ってないでこっちに来い」
「みーくん、かいちょーのとこよりこっちおいで?」
「だ、め……みず、きは俺のとこ、くる」
「みずちゃんは僕のとこに来るのっ!ほら、おいで!」
「「オレ達の間にいるんだもんねー?」」

 馬鹿七人衆がわいわいがやがやぴーちくぱーちく。それにくわえて、KYが一人。

「いっぺんに言うなよ!えーと、お茶は欲しい!んで、俺はここがいいの!約束しただろ、今日は散葉と紅葉の番だって!」

 なんだよ、順番って。アンタは日替わりでそいつらの隣に座ってるのかアホか馬鹿か。
 冬樹に言われて来たけど、今すぐ風紀委員室に帰りたい。
 なんだって僕がこいつらの仕事を手伝わないといけない。僕は生徒会ではなく風紀だ。こんな決算書類なんざ知らねーよ。

「おい風紀、手が止まってるが終わったのか?」
「……」

 風紀、というのは僕のことだろう。手伝いを必要としている会長分際で、そんな不遜な態度に、ぶちり、と勢い良く何かが切れる。
 自分達はやらないくせに、催促するとはどういう事だ下半身馬鹿が。と、思わなくもないがコイツは腐っても生徒会の会長だ。権限だけは無駄に持っている。
 下手に逆らったら明日の朝日が見れなくなるに違いないと、一般生徒ならそう思うだろうが生憎、僕自身も権限持ちだ。
 溜りに溜まったこの苛立ちを押さえてやる気は、毛頭無い。

「ではご自分でやったらいかがですか。元々はこの書類仕事はすべて生徒会のものです。それを委員長命令とはいえ、僕達風紀でわざわざ、この有象無象のいる生徒会室へ赴いて片付けてさしあげているのに何ですかその無駄にでかい態度は。感謝をされるのはわかりますが、仕事をしない貴方なんかにぐだぐだとガキみたいな…失礼。子供みたいな言葉を言われる意味がわかりません。コレなんか一昨日までの期限だったみたいですよ?先生方が何も言わないからって放置ですかどんだけですかこの無能共が」

 一度、生徒会の面々を見るとどいつもこいつもぽかんとアホ面を下げていた。
 おいおい、今現在アンタらの唯一の誇れる顔が見事に崩れてるぞいいのか。

「な、おま」
「僕が一般風紀だとお思いでしたら残念です。これでも風紀副委員長なので、貴方方お得意の生徒会権限は使えませんから」

 にっこり。笑ってやる。
 僕がキレた時の笑顔は素晴らしく怖いと冬樹からのお墨付きだ。

「それではまだまだ山積みなこの期限切れの書類はご自分たちでやってくださいね。迷惑ですので。ああ、補佐の方たちはお帰り頂いていいですよ。ご苦労様でした」

 部屋の隅のほうで、せっせとペンを走らせながら状況を伺っている会計と書記の補佐に二人に声をかける。
 途端にほっとした表情になった彼らに心から深く深く、同情した。二人は僕が来る前から必死に頑張っていたらしい。
 けれど、さすがに七人分の仕事を二週間も続けるのにはムリがあったらしく、風紀委員長にどうにかしてくれと言いに来たのだ。それで俺がココに来たわけだけど。

「な、そいつらは「今日までずっと補佐の方達がお仕事を片付けをさせていたのだから、少しお休みをあげてはいかがですか?コレが社会に出てのことだったら、違法で訴えられていますよ?」
「ちょ、待てよ!確かにコイツ等も悪かったかもしれないけど、そんな言い方ないんじゃないか?!」
「言い方を選んでいられない程に怒っていると、貴方は考えられないんですか?」
「っ、偉そうに言うけど、そんなにアンタは偉いのかよ!」
「そうですね。不愉快極まりないと認識している仕事をこなしている時点で、仕事をしない方々よりは偉いと思いますよ」

 言葉の応酬、というのはこういう事かと坂本瑞樹と言葉を交わしながら考える。
 確かに、彼の言う事は正しい部分もある。言い過ぎだと僕自身も理解しているけれど、それは今、この場で論じる事だろうか。
 もう少し雰囲気と空気を察して読んで欲しい。

「それに、生徒会ではない貴方が何故この場所に入り浸っているんですか?」
「そ、それはみんなが居てほしいって」
「そのせいでそこのお馬鹿達が仕事もしなければ親衛隊を御する事もなく、ただ単に説明もなく理解だけを求めた。今まで自分たちを守っていた人たちに解散しろと。制裁を止めていた隊長たちにさえ理不尽にも暴力ともいえる言葉を投げ掛けた。それが貴方を守る事だと思いこんでいるようですが、結果は正反対に向かってます」
「お、俺とみんなは…」
「友達だと。そんなこと周囲には関係ありません。彼らが真実とするのは、自分達が聞いた事見た事があるもののみです」

 そう、友達だと思ってるのはお前だけだよ。そこにいる生徒会は友情ではなく、馬鹿馬鹿しい『愛情』とやらを向けているのに全く気付かないなんてね。
 ただの友情だけだったら、彼ら親衛隊は動かないよ。自分達に向けられない愛情を注がれているのに、それに気付かないで無下にする。挙げ句には勘違い爆発の発言を連発して彼らを傷つけた。それらが親衛隊の自我の糸をぷつりと切らせたんだ。
 ある意味、自業自得としか言えない。

「僕達風紀は、立場上生徒には平等に接しなければならないんです。今、交わしている会話は、本来僕が望んでいるものではありませんでした」

 暗に、風紀でなければ会話もしていない事を伝える。伝わっているかどうかは知らん。けど、コイツに伝わらなくてもまわりに鎮座する生徒会は理解しただろう。してもらわないと困る。

「では、後は勝手にやってください。僕のノルマは終えたので、帰ります」

 立ち上がり、不安そうにしている二人の補佐の腕を取って生徒会室を出る。
 ドアを閉める間際に見たのは、顔を蒼白にした転校生、坂本瑞樹とソイツを囲むように集まった生徒会だった。

 ――ちゃんと彼らは仕事をするだろうか。

 不安になりながらも冬樹に報告をするため、補佐くん達と別れて風紀委員室へ向かった。


END

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