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 その夜。リズはお客さんと夕食を取るからと、エリシャさんとカエリアさん達と一緒にご飯を食べた。少し寂しかったけれど、断ったのは自分だから仕方ない。

「では私達は失礼しますね」
「うん、二人ともありがとうございます」
「寂しくなったら来てもいいからなー」

 わしゃわしゃとクラルさんが頭を撫でてくれる。どうやら気付かれていたみたい。でも、リズの帰りを待ちたいから、と断った。
 四人が帰って静かな部屋に一人になる。淋しさがむくむくと膨れ上がり、誤魔化すように違うことに思考を滑らせた。
 そういえばと薔薇のことを思い出す。明日には包んで貰えるけれど、気持ちが急いて仕方ない。

「リズもまだだろうし……少しだけ見にいってみようかな」

 寒い季節に突入していたから、上着を肩からかけて部屋から抜き足さし足。別に見つかっても平気なんだろうけど、少しだけ悪戯心で抜け出した。

 外は思っていたより冷えていたけど、いられない程ではない。

「え、と……」

 暗い庭園は昼間とは違う雰囲気がある。道も慣れた場所ではなくて、綺麗な花が咲くそこはまるで不思議の国のようだ。
 気分が上がって花を眺めながら目的の場所を目指すけど、目印であるアーチに近づくにつれて人の話し声が僅かだけど聞こえてきた。

「……?誰かいるのかな?」

 アーチの柱に手をついて、顔だけを出して覗き込むと金色と赤色が目に入る。金色の髪は見慣れたリズで、もう一人は赤いドレスを着た綺麗な女の人だった。
 あの人が、リズのお客さんなのかな?綺麗な人。
 見られて困るのはきっとリズだから、ここから離れないといけない。そう頭の中でわかっているのに、綺麗な人といることにもやもやとした感情が湧いて、話を聞こうとつい耳を澄ませてしまう。

「――……なのだから、どうかしら?」
「そうですね、検討の余地はあるかと思います。ただ、今はその時期ではありませんから」

 珍しくリズが敬語を使ってる。そんなに偉い人だったんだ。やっぱり行かなくて正解だった。

「あら、勿体ぶるのね。そういう所も好きだわ」
「……トラヴィスタ家のご当主にそう言って頂けると光栄、ですね」

 何の話をしてるのかはいまいちわからない。でも、リズが何かを迷っているのは、なんとなくわかった。
 何を困っているんだろうか。朝はそんな様子は無かったけれど、それは俺には言えないことなのかな?

「寒くなってきましたね、中に入りませんか?」
「いいえ、いらないわ。何か羽織るものを」
「用意させましょう。少しお待ちください」

 そう聞こえた後、リズはこっち側に向かって歩いてきた。慌てて近くの木に隠れると、すぐ脇をリズが通り過ぎていく。
 危なかった、と俺に気が付かなかったリズを見送って無意識に強張っていた身体から力を抜いた。

「……そこにいるのは誰?こちらに出てきなさい」
「……ッ!」

 瞬間、鋭い声が飛んだ。びくりと肩を揺らして振り向くと、さっきまでリズと談笑していた女の人が俺を睨んでいた。
 どうやら通り過ぎるリズに見つからないようにした結果、女の人からは丸見えだったらしい。とんでもない失態だった。

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