花言葉を貴方へ

「ジン君」
「……エリシャさん?」

 庭園で庭師さんと一緒に花の手入れをしていると、エリシャさんが入り口のアーチの下で手を振っていた。金色の髪がふわふわとなびいて、赤い薔薇のアーチに凄く似合う。
 手を振り返して、庭師さんに断ってからエリシャさんの元に走った。

「……あの、どうかしたんですか?」
「ええ、実は今夜お客様が来るらしいの。急な予定なんだけれども、リーズヴァルド様は是非ジン君を紹介したいって」

 どうする?可愛らしく首を傾げるエリシャさんに、少し考えてから首を横に振る。
 リズのお客さんって言うことは、きっとどこか偉い人のはずだ。そんな人が来る場に自分がいていいはずがないから。

「そう、わかったわ。リーズヴァルド様には私から伝えておくわね」
「すみません、お願いします」

 苦笑を浮かべるエリシャさんには、どうして断ったのか予想がついているのかもしれない。多分、ここにはいないリズも。
 だからエリシャさんは深く聞かないんだ。

「それじゃ、私は戻らないと。ジン君はまだここに?」
「あ、うん。もう少し手伝ってから帰ります。向こうの薔薇が綺麗に咲いたから、いくつか貰っていく約束をしてて……」
「あら、もしかしてリーズヴァルド様に?」
「……ダメだったかな?」
「いいえ、素敵だわ」

 私にも後で見せてね、とエリシャさんは笑って戻っていった。
 その背が見えなくなると、押さえていたため息をつく。どうにもリズやエリシャさんに甘えてしまうのを、まずどうにかしないといけない。なんでも二人やカエリアさん達に頼ってしまって、歯がゆい気持ちになってしまう。
 でも、まだまだ自分にできることは少ないから、せめて何かお礼がしたい。そう思って、何度か話をしたことがある庭師さんに頼み込んだ。その結果、手伝いをする変わりに薔薇を数本貰えることになった。
 今回の薔薇は例年以上に綺麗に咲いたらしい。庭師さんには「もしかしたら、ジン様のリーズヴァルド様への思いを花たちが汲み取ったのかもしれませんねぇ」とからかわれてしまった。

「おやおや、楽しそうですねぇ」
「はい、もう少しですよね?」
「そろそろ頃合いでしょう。明日の昼辺りにでも包んであげましょうね」
「ありがとうございます!」

 明日か。リズは喜んでくれるかな。楽しみ。なんて、そんな呑気なことを数分前まで思っていた。

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