I love you!

※数年後設定


 大学に入ってから一人暮らしをはじめて幾数日。
 いつもどおりの日。いつもどおりの俺の部屋。けど、一つ足りない。

「むー、なんかおもしろくなーい」

 そう、一番、俺にとって一番大切な人がこの部屋にいない。
 そりゃあ、ゆーやはもう中学生だし友達とわいわいしたいのもわかる。でもさでもさ、俺との約束を後回しにするってどんなもんなわけー?


『雪菜にぃ、明日なんだけど……ごめんね、行けなくなっちゃったんだ……』

『あのね、友達が補習になっちゃって勉強をね、一緒にすることになったの』

『来週はかならずお泊まりに行くから……』


 可愛い優也の言葉だからこそ、仕方ないねーなんて言ったけど。はっきり言って泣きたい。
 だってだって、中学にあがってからはさすがに友人関係もあるだろうからって迎えに行くのをやめた。勉強があるからって、家に遊びに行くのだって週に一、二回に減らした。
 メールや電話だって、同じ理由で一日に数えられる程度だけ。

「うーあー……優也が足りないよーん」

 そんな中での、久しぶりの逢瀬だったのに。いじけたくもなる。
 だから、ちょっとした仕返しに携帯の電源を切ってある。さすがに二十歳になる男がこんな仕返しは幼稚過ぎたかなー?いや、でも仕返しにならないかも。友達と遊ぶのに夢中になって俺のことなんか忘れてたりして。やばいマジ泣きしそーなんだけど。つーか、今の俺女々し過ぎやしないか?どんだけゆーやにぞっこんラブなの。
 自分ながらため息がつきたくなる。

「やっぱり帰りごろを狙って遊びに行こうかな……、パパさんに言えば泊まりもいいだろうしー」

 必死な自分が切ない。マジで。でもそうでもしないと会えない。

「……きっと、優也は平気なんだろうなー」

 だって、最近優也は抱きついてこなくなった。大好きって言ってくれなくなった。というか、なんか俺後回しにされる事が多くなった気がするんだよねー。
 土曜、日曜に祝日。約束してなくても、来てくれてたのに……。
 そんなに中学の友達が大事か。とか、ときたま言いそうになる。耐えてる俺、偉い。拍手。

「……ダメだ、俺崩壊中じゃん。つか重すぎ?だから優也嫌になったのかなー?っていうか付き合ってもないし。ダメじゃん」

 あーあー。……これじゃあダメだ。気分が堕ちるとこまで堕ちる気がする。
 少しの気合いをいれて、ソファーから落ちるように立ち上がった。
 こんなん俺じゃないし。まわりに嫉妬しまくりとか、むしろ誰だし。
 寝転がってぐちゃぐちゃになった髪を指で軽くかきあげてから、飲み物を取ろうとキッチンへと向かう。

「なーにかあったかなー?」

 そういえば、昨日の夜から何も食ってない。冷蔵庫の中を覗いて、食類が見えた途端に自己主張をはじめた腹の虫に気付かされた。
 ちなみに今は夕方で、約一日くらい何も食べてない。
 どんだけショックだったんだ、俺は。
 苦笑いになるのは仕方ないと思う。とりあえず冷蔵庫の中からお茶のボトルと、ハムだけを出して閉めた。作る気はまったく起きないし、コレだけで多分足りると思う。

「コレでお茶がお酒だったら、振られた後の自棄酒みたいー」

 自分で言っておいてなんだけど、笑えない。


 ――ぴんぽーん、


 無駄に自分で言った言葉に落ち込みながらハムを食べていると、ふいにインターホンが鳴った。
 誰だろ?灯鷺か雅かなー?

「はいはー、い」

 相手が誰か確認しないまま出る。一瞬、本当に一瞬、訪ねてきた奴を見て固まった。

「雪菜にぃ、」
「……ゆーや?」

 にっこり笑ってドアの外にいたのは、ずっとずっと会いたかった優也。なんで、とかどうして、とか考える前に腕を引っ張って中にいれ、そのままぎゅう、と抱き締めた。

「雪菜にぃ、ごめんなさい。約束破って」
「んー、いいよ。だいじょぶ。それより、こんな時間にどーしたの?暗くなるのが遅いって言っても、危ないよー」

 抱き締めながら腕の中を覗き込むと、優也が眉を八の字にしてた。眉間に寄る皺を伸ばすように指でぐりぐりしながら優也が気を落さないようににっこりと笑う。

「うー、えと、コレをね、渡そうと思って……」

 ポケットから優也が取り出したのは小さな箱。黄色い包装紙に包まれ、見ただけでプレゼントだとわかるものだった。
 それをゆっくりと差し出される。

「……俺に?」
「あの、ね?僕が作ったやつなんだけど……」

 箱を受け取り、その箱と優也の顔を交互に見ていると、優也が言いずらそうに視線をさ迷わせた。
 はじめての優也からのプレゼント。しかも手作りらしい。ドキドキとしながら、優也から体を離して包装を解いていく。

「……あ、」
「い、いちおう味見とか佳にぃにしてもらったし、俊にぃも美味しいって言ってくれたから食べられるはず、だよ?」

 蓋を開けると、中には数枚のクッキー。形はいびつで、とても円形には見えないけど頑張って作ったのがわかる。

「優也、ありがとう」
「……っ、うん!どーいたしまして!」

 優也をぎゅう、と抱き締めて、その後は拗ねてたのも忘れてクッキーを食べながらいちゃいちゃしてました☆


 後日、うさぎちゃんと子うさぎちゃんに聞いたところ、この頃構ってくれなかったのはクッキー作りの練習のためで。
 今回うまくできたのを早く食べて欲しかったらしく、包装して早々に俺の家に突撃してきたらしい。
 それを聞いて優也に抱きついたのは当然だよねー。

end

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