In a cold road at night

 今日は灯鷺さんに連れて行かれて『マルス』という喫茶店に行った。何回か行ったことのあるソコは、『rest』の溜り場で有名な場所。賑やかな雰囲気で、店員さんはみんな『rest』のメンバーらしい。経営する店長さんも、初代総長、だってゆっきーが言ってた。
 そんな場所に俺みたいな平凡が出入りするようになって数週間。やっと『rest』の人達に慣れてきた。
 最初は灯鷺さんも直視できなかったけど、今はメンバーの人達とも普通に会話できる程に成長。少しずつだけど、受け入れられてきた気がしなくもない。

「俊也、寒くないか?」
「あ、はい。大丈夫、です」

 喫茶店からの帰り道。冬は暗くなるのが早くて危ないから、って毎日送ってくれる。 今日もかわりなく並んで歩きながら、時々会話を交わす。
 俺も灯鷺さんも、積極的に話をするタイプじゃないからゆっきーや優也がいないと静か。でも、結構そんな静けさが気に入ってる。
 言葉は少ないけど、灯鷺さんの視線は優しくて穏やか。喧嘩してる時や、意地悪く笑う表情も格好いいと思うけど、やっぱりこの表情が好き、だと思う。
 好き、って思うと胸がきゅ、となって灯鷺さんに触れたくなり、でも恥ずかしくて、灯鷺さんの制服の袖をつかむ。

「……俊也?」
「……ぅ、えと」

 驚いたように歩みを止めた灯鷺さんにつられて足を止め、どう伝えればいいかわからなくて視線を揺らし袖を掴んだまま俯いた。灯鷺さんは動かない。俺も動かない。
 ほんの数秒か数分か、視界の端で掴んでいないほうの灯鷺さんの手が動いた。外される、と思って掴んでいる手に力を込めるが、予想に反して辿り着いたのは俺の頭の上。

「……っ、」
「ほら、帰るぞ」

 ぽんぽん、と軽く頭を撫でてから手を握られた。手袋越しに感じる暖かい体温と、往来で、っていう照れに顔が赤くなる。なんかもうどこが寒いとか温かいとかじゃない。全身が熱い感じ。

「灯鷺さん、手、あったかいです」
「俺もあったけーよ。俊也のおかげでな」

 にやり、口の端をあげて笑う灯鷺さんに余計に顔が熱くなったけど、ソレは気付かないふり。
 手を引かれてつられて歩きだす。家までまだまだ距離があるけれど、できるだけ長く長く一緒にいたいからゆっくり足をすすめた。
 灯鷺さんもいつも以上に緩いかんじ。

「俊也」
「はい?」
「寄り道、していくか」
「はいっ!」


end

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