Dark blue coat

「さむ……」

 寒さにかじかんで赤くなった手に息を吹きかけ、段々と体温が下がる体を持て余しながらトボトボと家に向かって歩く。コートはクリーニングに出したまま。
 そろそろ仕上がっているだろうけど、暇がなくて取りにいけてない。まさかこんなに寒くなるなんて思ってなかった。失敗した。マフラーだけは寒い。
 俊にぃと優也に予備のコートとマフラー、手袋をつけさせて良かった。こんなん二人ともきっと耐えられない。ああでも、あの赤い人とか黄色い人がどうにするか。きっとあの二人なら、嬉々として何かしらで暖めるに決まってる。特に黄色いの。
 優也に何かしたら……うん。夕飯にでも何か仕込んでやろう。

「はは。段々毒されてる気がする」

 空笑いしかでない。なんだこの適応能力は。自分ながら誉めてやりたい。たった数ヶ月でコレなんだから、一年経ったあとのオレはどうなってるんかな。

「け、やっ……見つけたっ」
「う、わぁっ?!」

 不意に背後からかかった重さに前のめりになるが、腰に回った腕がそれを回避してくれた。声とその行動に覚えがある。黄色いのと赤いのの仲間だ。そして犬だ。ワンコだ。オレは大型犬の飼い主になった覚えはない。

「けいや、学校いなかった……」

 迎えにいったのに、なんて拗ねた声音なのに振り返って見上げた顔は無表情。まぁそれはいつものことだ。声からしてホントに拗ねているんだろう。
 中学と高校で学校が違うのに毎日といっていいほど顔をあわせていれば、このくらいはわかるようになる。

「みやび。公衆の場で抱きつくなって言ってるだろ。それに今日は来れないっ言ってたろ?」

 だから先に帰った。確か昨日、集まりがあるとかなんとか。だから待たなくてもいいと思ったんだけど。なんて思ってたら、背後抱きから前抱きに変わった。いや離せよ。抱き付いてることにかわりはないだろ。暖かいのは良いんだけど。何を考えてるんだか。

「雅?」
「……総長。用事できた」
「用事?」

 首を傾げればコクンと頷かれた。赤い人の用事なんて俊也にぃしか出てこない。まぁいいか、とりあえず。

「離せって言ったろ」
「……ん、」

 八の字に繭を寄せながらも今度は素直に離してくれる。腕の中から抜け出して二歩の距離をとる。コレは外でのオレたちにとって、一番良いと考えた距離。遠くなくて密接してない。友人か兄弟だと思われるような。
 雅も説明しなくても感じ取ってくれたのか、この距離について何も言われたことはない。時々、目で訴えられるけど。

「……けー、寒くないか?」
「は?……まぁ、少しはな」

 オレの返事を聞いたあとコテリと首を傾げ、着ていたコートを脱いだ。
 それを広げると見上げていたオレの肩へ。ぽかんと見ていたけど、身体を包んだ暖かさに我にかえる。

「え?や、いいって!帰るだけだし」
「買い物、行くんだろ?」
「行く、けど」

 脱ごうとするけど、両肩を掴まれて動けない。脱げない。
 オレより雅のほうが寒そうなのに。コート脱いだらあとは制服だけじゃんか。けど、どうしても着せたいらしく脱ごうとするオレと着せたい雅とで静かな攻防戦。決着は……まぁ、わかるだろう。

「あったかい、か?」
「まぁ、な」

 普段ならオレの言うことは基本的に聞いてくれる雅でも、体調については負けてくれなかった。というか視線に負けた。

 うん。アレだ。縋るようなワンコの視線には勝てない。
 そんなことを実感した今日この頃。


end

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