to join hands

「コレとコレと……コレで1250円くらいか?」

 カゴに食材を入れていきながら、料金を頭ん中で計算する。
 良いものをなるべく安く買って、俊にぃや優也に美味しいものを食べさせたい。だから特売が載ってるチラシやらなんやらはチェックする。
 母さんはずっと前にオレ等の前からいなくなった。ソレからずっと、父さんは男手一つでオレ達兄弟を育ててくれた。
 にぃはオレと優也の二人の母さんのかわりに面倒を見てくれたけど、料理に関しては破滅的だったから、いつの間にかオレが料理を作るようになっていた。
 はじめの頃は失敗ばっかだったけど、段々慣れてきて今や熟年の主婦並だと思う。アレ、熟年ってこういう時に使うモノだったか?

「ん、コレぐらいかな」

 悩みに悩んだすえに、足りないだろう食材だけをカゴの中にいれてレジへと向かう。今日の夕飯はハヤシライス。なるべく長めに寝かせたいから、早めに帰って作らないと。
 会計を済ませて手早く袋に詰めていく。丁寧に、持つ時に負担にならないように詰める。下手すると帰る途中に落としかねないし。

「……そういえば、雅は来るんかな?」

 最近ほぼ毎日会うようになったにぃの友達。のはず。
 あの人達の関係はよくわからない。とりあえずにぃと赤髪の人は付き合ってるらしいことは雅から聞いた。
 優也は多分、黄色髪の人が向けている感情を理解してない。けど、なんとなく無意識に受け入れてる感がある。ちなみにオレと雅の関係は、飼い主と犬が妥当だと思わなくもない。
 後ろから襲ってくるは、前から抱きつくは。スキンシップは過剰でしつけがちゃんとなってないから、目下しつけ、違う、指導中だ。

「……けい、や」

 まぁ、とりあえずそれはおいといて。出会い頭に目一杯抱擁をしてくるやつはどうしてやろうか。

「……帰る?……まだ?」
「……。帰る。買い物は終わった」

 抱きついてくる腕が痛い。けど、悪気がないのはわかってる。ただ力加減がわかってないだけ。
 何かを抱き締めるという行為に慣れてないか、抱き枕と同様の扱いか。なんにしろミシミシと体が悲鳴をあげてるのはどうにかしたい。

「雅、痛い。もう少し力を抜け。または離れろ。つか、むしろ離れろ。ココはまだ公道だ」
「ん、」

 まぁ、ちゃんと言えば力を緩めてくれる。緩めるだけな。離してはくれない。
 暖かいからいいけど。夏は微妙かもしれない。うん。

「持つ」
「へ?」

 急に手元が軽くなる。気付けば両手に持っていた袋がなくなっていた。慌てて雅を見ると、右手に見覚えのあるスーパーの袋。

「ちょ、おい、」
「佳也、こっちの手……」

 両手で持っていた袋を片手でやすやすと持たれ、男のプライドが一瞬浮かんだけどソレは雅の次の行動により掻き消えた。

「な、っ」

 ぎゅ、とあいた手に自分より少しあったかめな温もりが。握られた手と、雅の顔を交互に見てから気付く。

「な、にっ、?離せ!」
「や」

 や、じゃないだろ。何をいうかこの野郎。だだっ子じゃあるまいし!

「……佳也、手、ぎゅ、ってして帰る」
「ぎゅ、はしないっ!!」

 べし!と勢い良く手を離させる。眉を下げて伸ばされた手をかわせば、スーパーの袋を持つ手に触れて持ち手の片方を握る。

「……手、は握らないがコレなら……まだ、」

 下げられていた犬耳がぴん、と立った気がする。表情は動かないが、雰囲気か?うん、雰囲気がぽやんってなった気がする。なんとなくだが。

「雅、帰るぞ」
「……ん、」

 こくん、と大きく頷くと雅に手を引かれるというか袋を引かれて歩きだす。歩幅が違うから、引きずられるままに足を動かす。
 くっ、リードを引っ張られる飼い主かオレは。

「こ、らっ!待て!待てって雅!足のなが……じゃない、身長を考えろよ!」

 そう言うと雅の歩調が緩くなって、オレの隣を歩く。
 危うく足の長さが違うとか言いそうになった。ホントのことだけど何か微妙に負けた気分になるから嫌だ。

「……佳也、今日は雪菜、こない」
「珍しいな。金髪がこないのは」
「泊り……伝えとけって…」
「泊まり?ふーん……何でオレに言うんだ?」

 頷いて気付いた。どこに泊まろうが知ったこっちゃない。言ってしまえばどうでもいい。
 けど、泊まるのが金髪ではなく優也なら?許可っていうかオレか俊にぃに言わないといけない。

「……多分、佳也が考えてること……合ってる」
「……はぁー」

 大きくため息をつくと、雅がどことなく心配そうに頭を撫でてきた。振り払うのも面倒で、スキにさせておく。
 どいつもこいつも勝手し放題だなおい。
 コイツもコイツだ。どっちが年上なんだ。こんなんで良く今まで生きてこれたな。コレは言い過ぎじゃないと思う。なんたっていつも腹すかしてるし、何処ででも倒れたように寝るし時々意味不明だし。

「……きっと、ある意味野生の本能的なもので生きてきたに違いない」
「?」

 なんたってわんこだし。
 不思議そうにしながらも今だに頭を撫でてる雅をほっといて、さっきよりも大きなため息。
 これから先も、コイツや他のやつらに振り回される未来が簡単に見えて泣けてくる。

 ――でも、オレがついてないと、とか思ったりなんかしてない。してないからな。……少ししか。

end

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