▼ ignore
「今日は俊にぃのスキなハンバーグだったのに……」
俊にぃからの電話を切って、キッチンを見る。
そっちにはハンバーグを丸めたものが数個。オレと優也と俊にぃの分それぞれ二個ずつ。
でも、俊にぃは外泊なんてしたことないし、たまには仕方ない。
「優也と二人だと……多いかな」
キッチンに入り、丸めてラップにくるんだハンバーグを手にとってため息をつく。
明日に回すのもいいけど、どうもその日に作ったものはその日に食べきりたい。
ああ、でも。
「黄色い人が来るかもしれないか」
最近入り浸って優也にひっつくあのにやけ面。時々、変態的な視線を優也にやってるのが気にくわないけど、その視線の先の本人が懐いてるからどうしようもない。
赤い髪の人からはじまって、どうしてこうもよくわからない人達に好かれるのかオレにはさっぱりだ。
「そのよくわからないリストにはアイツも入ってるんだけどね」
餌付けをした結果か。
特に何を考えてるかわからない奴に懐かれた。表情はまったく動かないけど、尻尾をブンブンと振られてる気がしてならない。
これで普通に犬だったら、頭撫でたり餌やったり可愛がるんだけど。人だし。
しかも、頭青いし。なんか不良だし。
ピンポーン。ピ、ピンポピンポーン!
「……噂をすれば、影?」
癖なのか何なのか。来るたびにインターホンが連打される。時々壊されるんじゃないかとか思うけど。まぁ、そのおかげで誰だかわかるし。
ハンバーグを置いてから軽く水で手を洗う。タオルで拭ってから、玄関へ。
鍵を開けると携帯を耳にあてた状態のワンコ。オレを見るとぷち、とボタンを押して携帯をしまった。
それから手を大きく広げる。
「……何してんの?」
「……お帰りなさいの、ぎゅー?」
誰の入れ知恵だ。誰の。しかもお帰りなさいじゃないし。
首を横に振ると渋々と言ったように広げていた腕を下ろした。外の寒さに身震いしている姿に入るよう促すと、でかい図体を揺らして中へと入った。じ、と見られる気配。
何を求められてるかは、この数日である程度把握できるようになった。なった。確かになったが、ソレができるかどうか話は別だ。
多分この場合はさっきのぎゅー、だろう。ムリ。
「……」
「……」
「……今日、二人って聞いた」
「は?」
いきなりの話題提供についていけず、ぽけっとしてしまった。
えーと、二人?何が?あ、ああ。なる程。
「赤い人か黄色い人に聞いた?」
多分、赤い人が黄色い人に電話か何かしてそれから黄色い人から雅に来たってところかな。
「ん、……だから、ね?」
「ね?じゃないから。離れろバカ」
前から抱きついてきた犬の頭を、バシバシと叩くけど痛そうに眉を寄せるだけで効果がまったくなさそう。
オレの手が軽く負傷しただけだった。
「……けいや、少しだけ……だから」
「……」
段々と抵抗するのが面倒になってきて、ベシベシ背中や頭を叩いてた手をだらりとおろして寄りかかっていると上から低い声が降ってきた。
声フェチではないけど、この低い声には少し逆らいがたい。渋々とコイツの背中に腕をまわす。
とたんにむぎゅう、と身体を締め付けるように強く抱きしめられた。
「けーにぃ、ただいまー!」
「おかえりー☆んでお邪魔しまー……ありゃ、雅と子ウサギちゃんらびゅらびゅー?」
バタン!と勢い良く開いたドア。入ってきたのはニコニコ顔の優也と、その優也を抱っこして表情を弛ませている黄色い人。
ぽかん、とそっちを見たけど黄色い人の言葉で今の状態を思い出した。
雅がオレを抱きしめて、オレも不本意だが抱き返してる。いちゃついてるように見えるだろう、この状態。
ぶわっと顔が熱くなる。
「……とっとと離せ馬鹿ぁあああっ!!」
この後、ことあるごとにからかってくる黄色い奴とそれに意味もわからずに乗る優也。尻尾を垂らして見つめてくる雅を無視し続けたのは言うまでもない。
end