▼ kiss
大きく開けた道をのろのろと歩く。見慣れない家、人、繋がれた犬。何もかも、あの子を迎えに行く為だけの風景。
慣れない場所はわくわくするけど、それでもやっぱり一人で歩いてると味気ない。隣には誰もいない。
けど、うん。もうすぐあの子の声が聞ける。笑顔がみれる。そう思うと、自然と歩む足が軽くなる。
「ふふ、今日はウサギちゃんは総長の家だしー。ゆーやも俺ん家に泊まらせちゃおっかなー」
そしたら二人きりでいちゃいちゃらぶらぶできる。
うん、ソレいいな。明日は休みだし。多分、子ウサギちゃんも許してくれるはず。
さっき雅にも教えたから、きっと、子ウサギちゃんはそっちに掛かり切りになるだろーし。
「……でも、お泊まりって言ったらゆーや、喜んでくれるかなー?」
そこが心配だ。告白はしたが、いまいち意味がわかってないみたいでうやむやに終わったし。
それに、遊びに行ったり迎えに行くと嬉しそうに笑って飛び込んで来るけど、 やっぱりまだウサギちゃんと子ウサギちゃんには適わない。
二人がいる時は基本的にどちらかの元へと戻ってしまうし、あまり構い過ぎると子ウサギちゃんのほうが白い目で見てくる。
何せ兄弟だ。顔の作りはゆーやに似てるから、ゆーやにそう見られてる気がしてあまりかまい倒せない。
「……まぁ、だからこそのお泊まりのお誘いなんだけどねー」
幼い想い人は、こっちの気も知らずにブラコン全開だ。少しは俺に構って欲しい、なーんて。前の俺だったら絶対に思わない事。
ゆーやに会ってから、変わり過ぎなくらい良いほうに変わった気がする。んー、コレは愛の力だよね、きっと☆
「……アレ?」
前を行くちまっこいのは。いやだな、俺ってばついてるー。
大きめのランドセルを背負って、ぽてぽてとか言う効果音がしそうな歩き方をしているのは、間違いなく俺の頭を締めてる子。
「優也」
いつも以上にしまりなくにやけてるのが自分でもわかる。一度ほっぺたを叩いて顔を戻してから、駆け足でその小さい身体に抱きついた。
「ぅ、あっ?!」
前へと揺らいだ身体を持ち上げて、にこりと笑う。
「一昨日ぶりー」
「ゆ、きなにいちゃん!びっくりしたの!」
本気で驚いたのか、服の胸元をぎゅうっと握り締めて大きな目で見上げてきた。
若干涙目なのがくる。
どこにくるって……下のほうに?
「うん、ごめんね?アメあげるから許して?」
常備されはじめたポケットの中のアメを一個差し出す。すると、顔を輝かせて「わぁっ!アメ!」って笑った。
涙に濡れた顔も可愛いけど、やっぱり笑顔が一番だよねー。なんて和んでみる。
「優也、許してくれる?」
「うんっ!へへ……ありがとう」
アメの袋を破るとぱくん、と口にいれる。ピンク色の球体が小さい口の中へと消えた。
「いちごー」
味を教えるためか、優也はアメを舌先にのせてぺろりと出した。
ふふ、アメより優也の赤い舌のほうが美味しそうなんだよねー。もうどうしようこの子。可愛いすぎ。
食べたい。やばい。
「……味見くらい、はいいかな?」
だって、据え膳だし。
今まで、我慢しまくってこの俺がちゅーすらしてない。
「食わなきゃ男の恥なんだよねー?」
「う?」
コロコロと軽い音。その音に誘われるように、ゆっくりと顔を近付ける。
道の真ん中だとか、まだ夕方だとか。いろんな事が頭ん中に回ったけど、目の前に好物がいるんだ。
我慢なんて、できるかっての。
ぽんぽんと頭を撫でてから、寒さに紅くなったほっぺたに触る。不思議そうに見上げてくる、純真な目に微かな罪悪感が生まれるのと一緒に征服感が溢れた。
顎に指をかけて固定すると、よくわかっていない優也と視線を合わせたままゆっくりと顔を近付ける。
「優也、」
「うん?」
鼻先が触れあうとこまで近付いて、まだ目を合わせたままの優也に笑いかける。
気のせいかもしれないけど、優也のほっぺたが赤い。しかも目がウルってしてる。ああ、もうっ!
「目、ぎゅって閉じて?」
「ん、うんっ」
俺が言ったとおりぎゅう、と目を閉じる優也。それに誘われるように唇を重ねると、ふるりと抱きしめていた身体が震えた。
ふふ、ゆーやとのはじめてのちゅーは甘いイチゴ味でした☆
end