special treatment

 太陽が沈みかけた屋上。赤く染まった空を見上げて膝の上にある頭を撫でる。綺麗に紅く染めてある髪は、見た目に反して柔らかく触りごこちがいい。
 授業が終わってから数時間。ずっとそうしていた。
 自分だけに晒される無防備な表情を眺めて、ゆっくりと時間が流れるのを感じる。普段の騒がしさが嘘のように静かな時間。

「……なんか、現実じゃないみたいだ」

 夕日の赤と、灯鷺さんの紅。色のコントラストが綺麗で、非現実的。こんな格好良い人が俺の膝の上で無防備に寝ているのが、夢のようで。
 なんで俺みたいな普通すぎるの奴に『俺のもの』とか『好き』なんて言ってくれるんだろう。きっかけを聞いても全然教えてくれないから、少し不安になる。
 最初に会ってから、今日までで俺は灯鷺さんのことを凄く好きになった。
 それにたいして、認めることを結構悩んだ。だけど、毎日俺に接してくる不器用すぎる優しさとか、強引に聞こえるけど甘い言葉とか。
 灯鷺さんの全部が俺を虜にしてしがたがない。
 最初に怯えまくっていたのが嘘みたいに、今は全然怖くないし反対に近づきたいくらい。
 だからかもしれない。最近はずっと、不安が胸の中で存在を強調してる。
 喧嘩ができるわけでない。頭が良いわけでもない。可愛くも綺麗でもない。灯鷺さんとは不釣り合い過ぎる。
 それでも先輩は居てくれるだけで、気持ちを向けてくれるだけでいいと言う。
 ゆっきー達みたいに喧嘩とかで役に経とうとは思わない。自分の限界はコレでもわかってるから。だから、できるなら支えたい。目に見える部分でも、見えない部分でも。
 前みたいに強制じゃない。俺が、そう思ったんだ。

「……ん、」
「灯鷺さん……?」

 起きたのかな?もぞりと動いた灯鷺さんに、撫でていた手を止めて顔を覗き込むと、ぼんやりとした目とかち合った。

「……おはようございます、灯鷺さん」
「俊也……」

 目は言葉より語る。紅いコンタクトレンズを挟んで見つめられて、ソレに誘われるように身を屈める。
 肘をついて身体を起こした灯鷺さんの唇と、俺の唇が触れた。

「……ふ、ぁっ、ン」

 柔らかい感触に酔っていると、唇同士を擦りつけて薄く開いたそこから熱い舌が差し込まれる。

「ぁ、ひ、さぎさ……」
「俊也、」

 いつの間にか背と腕は壁に押しつけられ、見下ろしていたのが見上げてる状態。
 生理的な涙に目が濡れて、ぼけた視界ながらも灯鷺さんの紅は夕日の赤よりも鮮やかに映る。
 貪るようなキスを交わしながら、灯鷺さんの手を握り返す。手や唇から伝わる体温。いつもは低いのに、伝わる高い熱は欲を煽る。

「……灯さぎ、さんっ、そろそろ……ひぁ、!」

 息継ぎが出来ず、苦しくなってきたため離してもらおうと顔を反らすと首筋にちり、とした痛み。

「……な、に?」
「俺のって印、な」

 痛みがはしった部分に指を当てて見上げれば、鼻先にはにやりと口元に笑みを浮かべた灯鷺さん。
 ぞくりと身体が震える。恐怖ではなく、少し理解し難い感覚。

「俊也、二択問題だ」
「……?」

「……ココでキスを続けるか、俺の家に来るか……どっちがいい?家に来る場合は泊まりだからな」

 それはどちらを取ってもまだ灯鷺さんと一緒にいられると言うこと。
 でも、どちらを取ると言われたら?

「佳也、に電話します」

 恥ずかしくて、照れ臭くて、俯きながら目線だけをあげて言えば、さっきまでとは違う、柔らかな笑顔が浮かんだ。
 ――その笑顔は俺だけに見せててくれるとうれしいです。


end


「うん。ごめんね?優也にも……うん、じゃあ。……?灯鷺さん、誰に電話してるんですか?」
「雪。アイツに連絡しとけば雅にも伝わるしな」
「……?」
「二人だけなんだろ」
「優也と佳也ですか?……あ、だから」
「ん、」
「……灯、鷺さん」
「とっとと行くぞ」
「――、はいっ!」

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