▼ suddenly
家に帰ったら部屋ん中が色々な意味でカオスだった。
今日のオレは朝の運勢は一番で、朝から昼にかけても何事もなく平和。けど、夕飯の買い物から帰ってきてみたら。
俊にぃ、何で赤い人の膝の上?優也、え、何で黄色い人と抱き合ってんの?あれ、どっちかっていうと羽交い締め?
ちょっと待て。ココ、オレの家だよな?間違ってないよな?ってかあの赤い人、俊にぃ毎朝迎えに来てる人じゃん。
「……えー?」
「け、佳也!」
「……ただい、ま?」
目の前の光景に、どうしたらいいかわからずスーパーの袋を持ったまま、リビングの入り口で立ち往生してると、やっと気付いた俊にぃが驚いたようにオレの名前を叫んだ。
とりあえずコレでこの家がオレん家だって事は証明された。
「あー、俊也くんの弟くん?子ウサギちゃんが増えたー」
「……う、うさぎ?」
「……ゆっきー、俺の弟はみんな子ウサギなの?」
「かぁわいいよね、うさぎちゃん。ゆーやが一番だけど☆」
――とりあえず、夕飯の支度するか。
色々突っ込みたい事があるけど、この際無視だ無視。
リビングから離れてキッチンに行くと、幾分か気分が落ち着いた。見慣れた配置に、思わずため息が出る。
「……夕飯迄には、帰るんかな」
袋から大根や人参を取出しながら、ふと気付いた。育ち盛りが五人もいる。
買ってきたもので足りるか微妙なところだ。
確認するべきかしないべきか。でも、リビングに戻るのは嫌だ。面倒な事には巻き込まれたくはない。
男同士の膝だっことか、そんなん見たくなかった。しかも、されてんの俊にぃだし。
ギリギリ優也はまだ子供だから、甘えてる……甘えられてる?ように見える。
「どう反応を返そう……」
きっと次に顔を合わせたら、にぃがどもるな。
顔、真っ青にしてそー。っていうか、アレはただのスキンシップなのか?それとも……つ、付き合ってんのか?それによって心構えが必要なんだけど。
実の兄だし、できるなら傷付けたくはない。
「……夕飯?」
「ふっ?!」
キッチンの前で、悶々と考えていると背後から腕が生えて腰に回った。同時に耳元で低く澄んだ声。
え?体動かないし!金縛りか?いや、こんな真っ昼間から……ってじゃなくて!
「な、えっ?なに……っ!?」
声のしたほうを見上げてみれば、さっきリビングで見た顔。青い髪のほう。
視線の先はオレの手。マジマジと弁当用に買ってきたミニトマト見つめてる。
「……作るのか?」
「まぁ……」
「「……」」
何しに来たんだこの人。
飯をたかりにでも来たのか?まだ何も手ぇつけてないけど。
「……腹、減った?」
「……」
問い掛けると小さくこくん、と一回頷いた。子供ですか。
「じゃあ、一回離して。簡単なもの一個作ってやるから」
「……ダメ?」
「ダメ」
強めに言うと渋々といったように離れていった。それでもまだ視線は感じるから、結構近くにいるんだろう。
「名前、……けいや?」
「そう。佳也。にんべんに土を二つな」
「……雅」
雅。青い頭で雅か。
まぁ、整った顔に似合わなくもない。
「名字は?」
「……ない」
「いやいやいや、あるだろ。いきなり名前呼びはムリです。つーわけで、「雅」……わかったよ」
オレが折れるしかないのか。オレが間違ってるのか?だって、俊にぃといる時点で年上だろ。敬語使ってないけどいまさらか。
「……んじゃ、やるかなー……」
リビングの事はとりあえず忘れた事にして、この腹減りをどうにかしよう。
話はそれからたっぷりと聞いてやろう。うん、話すの苦手そうだけど……、なんとかなるだろ。
end