meet by chance

 店で適当にくつろいでたら、雪がいきなり俺と雅の腕を引っ張って今は俊也の家の前。
 ……何故だ?

「さてさて、ピンポーン、とな☆」

 最近通い慣れてきた家を見上げていれば、言葉どおりにインターホンを鳴らす雪。……オイ。その後ろでは雅がいつも通りぼんやりとその行動を見ている。止めやがれ。

「雪菜……ピンポンダッシュ?」
「ノン!男三人はむさ苦しくてかなわないからぁ、花を探しに三千里〜」

 花って……いくらアイツが可愛くても立派な男だぞ。反応や仕草、諸々顔も体も含めて可愛いがな。

「総長顔が変態〜。卑猥罪で即逮捕されちゃうよ?」
「うるせぇ」

 オマエの頭は年中黄色いだろうが。
 睨み付けるが、付き合いの長さかその性格からか。コイツには俺の睨みは通じない。ただ笑ってるだけだ。

「あれ……灯鷺先輩?……と、ゆっきーにみぃちゃん……」

 雪に気を取られていたせいか、ドアが開いたのに気が付かなかった。僅かに開いたドアの影から俊也が驚いたようにこっちを見ている。
 目を丸くしてきょとんとした顔で見上げている姿に、……萌えた。

「……よぉ」
「あっはー、ウサギちゃんたらその言い方……俺達二人、おまけみたいじゃーん?総長しか見えてないみたいなー」
「「なっ!!」」

 思わずハモった俺と俊也は互いに顔を見合わせる。
 目が合えば俊也は首から上を真っ赤に染めて……食べ頃かと思った。

「いや、えとっ!えと……と、とりあえず、上がりますか?」

 誤魔化すように視線を逸らされて微妙にショックだ。いや別にいいんだけどな。
 これぐらい、最近は慣れた。俊也は照れると顔を合わせない。目を合わせない。ついでに言葉も交わさなくなる時もある。
 まだマシなほうだ。

「あ、そおー?遠慮なくお邪魔するね☆」
「……雪」
「やだな。睨まないでー?」

 雪菜の襟を掴んで雅に押しつける。嫌な笑みを浮かべながら見ているコイツに、どうしてか嫌な予感がしてならない。
 しかし、今はそんな事どうでもいい。問題は目の前の俊也だ。
 俺らが入れるように大きく開いたドアを手で支えている姿を見下ろす。
 どうやら休日だからとラフな格好で、長袖のブイネックのセーターに膝丈のチノパン。
 わかるかこの愛らしさ。白い足が見えてそそられる。

「ひ、さぎさん?えと……あんまり見られると、その……」

 真っ赤に染まった顔。気のせいか涙目だ。やばい。誰か俺を止めろ。
 握った手のひらに湿った気配。手に汗を握るとはこの事か。

「……にいちゃ?」
「っ!優也!」

 意味のわからない葛藤をしていれば、舌足らずな声音が俊也の後ろから。
 真っ赤な顔を次は少し青くして、後ろを振り返った。

「優也、宿題終わったの?」
「うん、おわったの。にいちゃ、おきゃくさん?」
「あ、うん。学校の」

 俊也の後ろから覗き込めば、ちょうど俊也を小学校まで幼くした感じのチビがいた。

「あー、かーわいっ!子ウサギちゃんだぁ」
「……子ウサギ?」

 気付けば雪と雅も覗き込んでた。ふと、そのチビと目が合った。
 びくり、と身体が大きく震える。目がだんだんと潤んできて……ああ、嫌な予感。

「ぅわあぁあんっ!!」
「ゆ、優也!泣かない!怖いけど怖くないから!見た目ああだけど!!」

 チビが俊也の足に抱きついて泣きはじめた。それを宥めようとする俊也の言葉が胸に刺さったが気にしない。ガキに泣かれるのはいつもの事だ。
 でも……俊也、時々オマエも毒舌だよな。

「あーあ。泣かれてるー、総長の顔が怖いからだよねー」

 ……俺の顔のせいなのか。わかってる。笑うな雪。耐えるな雅。

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