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「ひ、ひさぎ、……さん?」
「違う」
「え、え?」

 決死の思いで言った言葉に、却下をくだされた。

「さん、はいらねェんだよ。名前だけで呼べ」
「っ?!む、むむ「無理なんて言わねェよなぁ?」はいーーっ!!」

 もうやだこの人!平凡いじめ反対!スト起こすぞ!意味なさそうだけどな!とりあえず、な、名前呼べば膝からおろしてくれるんだよな?
 うん、よし。頑張れ俺。こんな時くらいチキンハートとはおさらばしよう!はい、深呼吸。吸って、吐いてー……

「……ひ、……ひさ…ぎ(さん)」

 言い切った。言ったぞ!心の中でさん付けたけど!!遣り切った俺偉い!今日の夕飯は奮発して肉鍋にしようそうしよう。

「……名前だけって言わなかったか?」
「……え、」

 あ、心の中で言ったの気付かれてましたか。ダメですかそうですか。肉鍋はなしですか。あんたエスパーかよ!だけど普通に呼び捨て無理っすよ!!んなことしたら、アンタ慕ってるやつらにぼっこんぼっこんです。暴力反対。痛いの嫌い。というわけで離してくださいーーっ!!!
 そんな想いを込めて勢い良く灯鷺さん見上げた。勢いなかったら怖すぎて見られないんだどちくしょー!

「……仕方ねェな」
「!」
「今はそれで我慢してやる。……けどな、」

 あ、れ。不穏な空気。嫌な予感がひしひしとしてきたんですが。呆然としながら見ていたら、にやりと口角をあげて笑ったその表情にびしりと身体が固まった。

「そうやって抵抗されると、屈させたくなるんだよな……」

 逃げろ。やばい。コイツはやばい。掴まったら逃げられない。頭の中にうるさいほど警報が鳴る。けど、そんなものは遅かった。

「なぁ、俊也……?……自分から俺を求めて来るようになるまで、躾けてやるよ」

 口元に笑みを刻んだまま、近づいてくる整った顔。避けようなんて考えは出なかった。ぼんやりとその動作を見守って、苦い、けどどこか甘いキスを受けとめた。
 コイツ、の人とは思えないくらい綺麗な笑顔に、掴まったんだ。


end

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