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中等部からいつもそばにいた奴らが離れて、まったくとは言わないがあまり縁のなかった奴が今、隣にいる。変な感じだ。
「なぁ、“アレ”見たい」
「……ああ」
頼めばパチッと指が鳴る音とともに周囲に現れた淡い光。
ふわふわと揺れる光に手を伸ばして触れようとするけど、通り過ぎて何もない宙を掴んだ。
「……」
「触れないぞ」
「……わかってる」
何とも言えず罰が悪くて、伸ばしたままの手を引っ込めれば下のほうで聞こえた笑い声。自分らしくない行動をした故の結果に、少しの恥ずかしさを感じて八つ当たり気味に言い返せば更に笑われた。
「……おい」
「くくっ、……悪い」
笑いが止まらないのか珍しい荒川の様子に諦めの息をつく。
「……変わったというなら、荒川もだろうが」
「そうか?」
「ああ。前は仏頂面だった」
「……そうか」
荒川が返すのは同じ言葉なのに、声と様子で差がわかる。先の「そうか」は不思議そうに、後の「そうか」は少し落ち込んだように。
まぁ、なんとなくしかわからないが、それでもコイツのことを理解ができるっていうのは近付けたみたいでなんだか嬉しい。
「って、そんなこと思うわけがない」
「……いきなりなんだ?」
「いや、……何でもねぇ」
アイツ等が変なことを言うからだ。ただ、そんな認識の仕方があるってことを知ったから気になっただけだ。決して俺は男がスキなわけじゃねぇ。いや、誰もスキだなんてそんなことは言ってない。誰だ俺がコイツをスキだって言ったやつは。副会長と会計だちくしょう。
いや、落ち着け。俺はただ“友達”として近付けたのが嬉しいんだ。そうだよな。
「……おい、本当にどうしたんだ?」
「……な、何でもねぇ」
心の中で葛藤していたのが表に出たのか、荒川が訝しそうにしていた。
それに対して同じように返したが、あまり信じていないらしい。眉を寄せたまま、荒川は俺を見つめてきた。
「……」
「……」
沈黙が落ちる。黒い目の強い視線に、居心地が悪くて目を逸らした。ふいに、組んでいた腕を掴まれて強く引っ張られる。
「っ、!?」
突然のことに態勢を立て直す暇もなく、身体は崩れて座っていた荒川の上に落ちた。物理的に近くなった距離に、頭が追い付かずにただ間近にある荒川を見上げる。
「今、お前の、近くにいるのは俺か?」
「……あ?ああ、そうだな。今はまさに……目の前に荒川がいるぞ」
膝の上に乗っかっているという状態が無駄に現実感が無く、そのままの状態で聞かれたことを答えると「違う」と即答された。