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それにしても、新メンバー達はどうやら噂好きらしい。好き勝手に俺とアイツのことを話しては、何が楽しいのか笑っている。
「……かいちょ?どしたの?」
そんな様子を少し不思議な気分で眺めていると、視線に気がついたのか副会長と会計が俺の方を見ていた。
それに困って緩く首を振ると、副会長が立ち上がりこちらへと近づいてくる。
「会長、変な顔してますよ」
「……変な顔ってなんだよ」
机の前まで来た副会長はそのままの意味ですよ、とにやりと笑う。その姿に前副会長を思い出した。アイツも確か、人を食ったような笑い方をしていたような気がする。
ほんの僅かしか時間が経ってないのに、前の副会長、会計、書記たちの顔を思い出せないのは何故だろうか。
「……悪い、少し出てくる」
「え?ああ、愛しの風紀委員長のとこですか?」
「とこですかー?」
「あのなぁ」
何が愛しの、だ。また無駄な恋話に花をはじめた二人に、小さく突っ込んだ。
「よぉ」
「……何で今日はここなんだ?」
「ちょっとな」
「?」
副会長の言うとおり、俺は荒川に会いに来ていた。違うのは、場所。裏庭で会ったら間違いなくアイツ等の餌食になってしまう。そう思って教えて貰っていたアドレスに連絡を取り、裏庭の少し奥にある開けた場所に呼び出した。
荒井は少し不思議そうに俺を見たけど、特には何も言わずに木に寄りかかっていた俺の横に胡坐をかいて座り込んだ。
「なんつーかさ、新しく入った奴等が揃いも揃って変な性格だった」
「……そうか」
「窓からさ、見えてたらしい」
「俺達がか?」
「おう。そんで、なぜか俺と……」
「『俺と』、何だ?」
突然呼び出した理由が言いづらく、先程の副会長達の話をしようと下にある荒井を見降す。すると、俺の方を見上げていた荒井と目が合った。
「その、俺と、お前が……付き合ってるんじゃねぇか、って」
「……」
「あ、あー……でも、ちゃんと否定はしたからな?アイツ等は聞いちゃいなかったが……」
荒川の視線に、言葉が詰まってしまった。無言のまま仰ぎみる様子に、聞かれてもいないことを続けると「そうか」と一言。
それだけか、と思わず肩を落としたが荒川が笑みを浮かべたことにより気分が上昇した。
「前のお前はいつも不機嫌そうだったが、今は楽しそうだ」
「そう、見えるか?」
「ああ」
満足そうに頷く荒川に、思わず苦笑する。確かに今のメンバーになってからは、以前よりも仕事がはかどり空気もよくなったけれど。
「もし、今の俺が楽しそうに見えるなら、それはお前のおかげだ」
「……俺?」
「ああ。」
確かに鶴岡を筆頭に味方になってくれた奴らはいる。けれど、どうしても無駄に高いプライドのせいか弱いところを見せることが出来ずにいた。
そこに現れた『魔法』という普通ではない秘密を共有する荒川の存在は、魔法使いというものに憧れていたこともあってか寄り掛かりやすい位置に落ち着いてしまった。
荒川にとっては不本意過ぎるだろうが、俺にとっては貴重な『休める場所』になったのだろう。