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目を奪われたのは光。ゆっくりと流れるような動きをするそれらが、長身の周りをゆっくりとたゆたう。
「……」
はじめて見るその光景に声をかけようとしていた口が塞がらず、その様子を窓から身を乗り出すようにして食い入るように見つめた。
光の洪水、というのはこういうことを言うのだろうか。淡い赤や青、黄色、色とりどりの光が消えては現れる。
通常では考えられないその光景は、まるで、魔法のような。
「……すげぇ」
「っ、」
思わず口に出た言葉は、光を纏わせていた相手に届いたらしい。驚いたように俺を見上げてきた。
やはり、強面のその顔は、見覚えのある奴で。けれどいつもは真っ先に受ける冷たい印象は消えているような気がした。
「……長谷部」
「よう、荒川」
とりあえず、呆然とした顔で見上げてくる風紀委員長に笑ってみた。
不思議な光景を見てから二週間がたった。その間に前生徒会連中と色々あったが、今の学園は以前の平和なものに戻った。
だが、以前と違うことは二つ。一つ目は生徒会室に新役員が迎えられた。少し戸惑った様子はあるが、まぁ大丈夫だろう。
二つ目。それは、俺が頻繁に裏庭に行くようになったこと。以前は動くのが面倒だと教室か生徒会室以外には行かなかった俺が、裏庭に行くようになった理由は一つだけ。
「荒川」
「……また、来たのか」
「またで悪かったな」
諦めた様子の風紀委員長に断りなく、木に寄りかかっているそいつの隣にあぐらをかいて座る。顔をあげると、そこからは生徒会室の窓が見えた。
「仕事は大丈夫なのか」
「誰に言ってる。俺が大丈夫じゃないわけがないだろう」
「そうか」
「そうだ。荒川が気にしなくても大丈夫だ」
短い荒川の言葉に返すのはある意味強がりな言葉。大丈夫、と繰り返すのは自己暗示のようなもの。
「……大丈夫」
「……」
リコールへの罪悪感が日に日に増していく。けれど自分で決めたことだから、周りに相談をすることが憚られた。
しかし、こうやってぼんやりと荒川の隣にいる時だけは、その罪悪感が何故か薄れる。今までは気付かなかったが、荒川にはリラックス効果でもあるのか。はたまたコレも魔法の一つなのか。
「長谷部」
「……あ?」
「……大丈夫だ」
「……おう」
なにが大丈夫なのかわからないが、荒川を見上げると真っすぐな視線が俺に向けられていた。
思わず頷くと、荒川は少し満足そうに笑ってパチリと指を鳴らす。そうすると、この間見た光が俺たちの周りを囲んだ。
「相変わらず、綺麗だな」
「まぁな」
俺を励ます為にこの光景を見せてくれたのだろう。思わず顔が緩む。光は、まるで俺を慰めて包んでくれるかのように揺れた。