▼ Fantasy Magic
俺がまだ小さい頃。なりたかったものがあった。それは高校三年になった今でも憧れるものであり、なれないとわかりきっている非現実的なもの。
――魔法使いだった。
「長谷部様、こちらも終わりました」
「……ああ。助かった」
書類の束が数十、机の上に置かれた。顔を上げると綺麗な、しかし無表情を作った親衛隊隊長。
「そんな顔すんなよ、鶴岡。柴田に見つかったら俺が怒られる。『表情豊かな隊長を無表情にするまでへたれなんて!』ってなぁ」
「……長谷部様は怒られません。他にあの子の怒りを買っている方々がいらっしゃいますから」
「……そうだな」
冗談で言った言葉に返ってきたのは、真面目な眼差し。それに思わず苦笑をすると鶴岡の表情がより、消えていった。言いたいことを我慢して、自制を効かせる時の癖。
「鶴岡、これに代理の判を押せ」
「長谷部様、コレは……」
そんな鶴岡に一枚の紙を差し出す。そこに記載された内容に、驚いたように大きな目が瞬いた。
「……よろしいんですね?」
「ああ。アイツ等の目を覚ましてやらねぇとな」
頷くと鶴岡は真剣な顔で、一番下に作られた欄に判子を押す。これでこの書類は意味を持つようになった。
「これで、長谷部様以外の生徒会役員はリコールになります」
「ああ。俺は残りの仕事をやらねぇとだからな。……悪いが理事長室に持っていってくれるか?」
「はいっ!すぐに戻ってきますから、待っててください!」
勢い良く頭を下げてから鶴岡は、生徒会室から出ていった。……残されたのは会長の俺だけ。
鶴岡の背を見送って深くため息をつくとイスから立ち上がる。長時間、立つこともなく書類を片付けていたため、体のあちこちがぴきぴきと鳴った。
久々に体を動かしたい。ここしばらくは机が友達だったから、せめて走りたい。けど今はそんなことをしてる場合じゃないことは理解しているから、この生徒会室に一人でいる。
数週間前まではにぎやかだったこの部屋は、今や無音ばかりで時折来る柴田や、手伝いをしてくれる鶴岡がいなければ会話さえできない。
「……どうしてこんなことになっちまったんだかなぁ」
かつての友人たちは、今や季節外れの転校生に夢中になり、お陰で俺は仕事三昧。挙げ句に、一番作りたくなかったリコール請求の用紙まで作成してしまった。
アイツ等の傍若無人な行動にもう、呆れることしかできない。
「……あ?アレは……」
今後のことを考えて頭を抱えたまま窓の外を見ると、ふと目についた長身。八つ当りでもしてやろうかと窓に手をかけた瞬間、自分の目を疑った。