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一人だけ、その紙の正体に気付いた冴野が声をあげた。その紙を、否、その資料を纏めたのが自分であったからだ。
「まつば、とおや?」
顔写真と細かいプロフィールが載っている、教員の資料。
そこには写真が貼られていて見ただけで染めたとわかる、金の髪の青年が笑顔で映っていた。この学園に配属される予定の新任教師らしい。紙から目を離し、鹿野を見る。
「そいつの世話、任せた」
「……は?」
ぽかりと目を丸くする。まったく持って、予想していなかったセリフに神田直人は絶句した。
気温は五度。その寒い中、コートだけという軽装備で遠矢は立ち尽くしていた。
指定された場所に着いてから約三十分。未だに配属された学園からの迎えがこない。
駅に着いた時点での連絡では、案内のために生徒を寄越すと言われたが、あまりにも遅い。
「んー……電話して、確認するかな」
足元においたボストンバックを肩に担いで、公衆電話を探す為に辺りを見回した。と、すぐそこのコンビニ前に公衆電話が二台。
「お、みっけ」
小走りで駆け寄る。ボストンバックの一番小さいポケットから財布を出そうと探る、が。
「……あれ?え?あれ……財布!?」
探っても、指先に当たるはずの固い感触がない。慌ててその場にしゃがみこんでバックのチャックを開いた。
着替えや本などの荷物をかき分けて中身を探すが見つからない。
「……何してるんだ?」
落としたのか?朝はあった。駅でも開いた。え?どこ?と頭を抱える遠矢の背後から声がかかった。