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「ば、バカだろっ!そんなわけないっ」
「な、バカはないだろ……」
顔を真っ赤にさせて怒ったように言うけど、こういう時の充は怒っているわけでなく照れているだけだ。だからどんなに睨んできても怖くない。
むしろ俺を気にかけてくれているとわかった。それが嬉しい。
「充、俺はお前のことしか考えてない」
「う、うるさいっ」
本当のことを言うと、慌てたように充が俺から離れようとする。それを遮って、俺に触れていた手を掴んだ。ビクリと震える肩を抱いて包みこむと、「離せ!」と胸を何回か叩かれたけど力を込めると叩く力が弱くなった。
しばらくすると俺の服の裾を掴んで、ぐりぐりと額を押しつけてきたから頭を撫でる。
「充、スキだ」
「……ばか」
なんとなく、甘い声に聞こえた気がしたのは俺の気のせいだろうか。
その日は、再開して初めて二人きりで穏やかに過ごした。
「……はぁ」
二人を残して庄田の部屋から出た俺は、自分の部屋に戻ってため息をついた。
まさか自分の思い人に睨まれるとは思わなかった。相手は俺の気持ちを知らないから仕方ないというか、なんというか複雑な気分だ。
アイツ、片山が転校してきてから庄田は変わった。前は、冷静でいつも笑っていたけどどこか一線を引いていて入りこめなかった。けれど、片山が来てからは子供、というか年相応の反応をするようになってきた。
話しを聞けば、どうやら二人は昔からの知り合いらしい。何があったかは知らないが、どこか気まずそうな雰囲気を残しながら、誰にも入れない二人だけの世界があった。
その間に入ると、とてつもなく居ずらい。
それでも庄田の顔を見たくて、話したくて傍に寄るが、いつもは片山が邪魔をする。
けれど今日、初めて庄田に睨まれてしまった。結構胸が痛い。アレか、邪魔をする奴は馬に蹴られろってことか。
「…………はぁ」
また深くため息をついて、ふて寝をするためにベッドに入った。
end