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充はこの幸村という同室を学園内では誰よりも信頼しているらしい。朝食、昼食、夕食はもちろんのこと休み時間や放課後までほぼずっと一緒にいる。
俺と充の関係は知らないらしいが、目が合うとすぐに睨んでくる。コイツは絶対に充を恋愛感情で好きだ。断言できる。だが今は充に伝える気は無いらしく、つかず離れずの距離にいるようだ。これは断言できない、むしろしたくはないが……はっきり言って俺より幸村の方が充に近い気がする。
だから余計に焦る。もしかしたら俺の知らないうちに充は幸村を選ぶんじゃないか。もしかしたら、と。こうやって会って、まだ大丈夫だと安心できるうちはまだいい。長期の休みになったら、同じ寮内だからと押しかける理由すら効かなくなる。卒業したら?きっとまた俺に言わずに知らない大学に行くに違いない。よく「離れたい」と口にしているし。
「……珪?」
「な、なんだ?」
「……なんでもない」
「そう、か?」
ネガティブな思考に落ちている時に充に話しかけられた。その声で意識が浮上してそういえばまだ幸村がいたんだと思いだす。
確か、充は幸村と話していたはず。何かあったのか、と顔をあげるとどこか微妙な表情をした奴がドアの近くに立っていた。
「……庄田。俺は戻るな」
「あ、ああ。ん、悪いな」
「いや……」
気付けば微妙な雰囲気が漂っていて、幸村が居心地悪そうに部屋から出ていった。
幸村が来る前とは空気が違う充の様子に、「どうした?」と問い掛けると俺に視線を向けてから無言でベッド座る。どうやら少し機嫌が悪いらしい。
「充?」
「……ん」
無視をする気はないらしく、一応は答えてくれた。そろそろと近づいて足元に寄ると、充は俺の顔を見たまま手を伸ばしてくる。
見上げたまま受け入れると、ぐい、と頬を引っ張られた。
「いっ!?」
「むかつく」
「え」
ぐいぐいと引っ張りながら、充が呟いた。自分でもわかるアホ面をしたと思う。
「……充」
「……何で幸村のことを見つめてたの」
「は?」
「むかつく。それにむかついてる俺もむかつく」
顔をしかめたまま言葉と連動しているのか、段々と頬を引っ張る指にも力が込められていく。
痛い。頬が確かに痛いが……。
「充、嫉妬してくれたのか?」
「!」
「いでっ!」
一際強い痛みが走ったかと思うと、指が頬から離れた。