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「君が春凪 碧くんかな?」

 ぽけっと校舎を見ていると、背後から声がかけられる。振り向くと、少しだけ懐かしい顔。

「……そうだけどー、どちら様ぁ?」
「こんにちは。案内役を頼まれた羽住 奈津です」

 でも、どうやら僕には気づいていないらしい。それもそうか、この人は昔から兄だけを見ていたんだから、僕に気づくはずもない。それに、名字も叔父のものを借りているし。見つからないように叔父には血縁者だと言うことは黙ってもらっている。

「ふぅん、じゃあ案内よろしくぅ」
「……ええ、こちらへ」

 少しだけ不思議な顔をした羽住は、すぐに背を向けて校舎に向かって歩き出した。僕もそれに3歩ほど遅れてついていく。
 やっぱり羽住がいると目立つなぁ。すれ違う生徒たちは顔を赤くしながら黄色い声をあげる。こういうとこもまったく変わってない。
 どうやら目指すのは理事長室らしく、段々と特別等が見えてきた。

「この先が理事長室ですので、そちらへ。後は寮長が迎えにくることになっていますので」
「うんうん、アリガトー」

 廊下の先を示す羽住に、頷いて歩き出そうとすると何か言いたげに表情が揺れた。それに首を傾げると、羽住は「いえ、なんでもないです」と苦笑した。

「ただ、その……昔の友人に似ている、と思っただけなので」

 気にしないでください、と寂しげな表情で笑う彼に小さくそう、とだけ返して今度は完全に羽住に背を向けた。
 気付かれたのかな、違うか。だって彼は僕のことを友人だなんて思うはずがないから。きっと違う誰かと重なったに違いない。
 僕には無関係。だって、懐かしそうな、寂しそうなあの目は僕に向けられるはずがないから。
 羽澄のことを頭のなかから追い出して、理事長室へ続くドアを開けた。

「……やぁ、碧」
「どーも、理事長さん」

 親しげに声をかけてきた叔父さんに、まだドアをしめていなかった僕は貼り付けた表情と偽った声音だけで返した。そうすると、叔父さんは苦笑を浮かべて手招きする。
 逆らう理由はないので部屋に入ってから、きちんとドアをしめた。

「久しぶり、叔父さん」
「うん。元気そうだね」

 向かい合わせにソファーに座り、叔父さんが手ずから入れてくれた紅茶を飲みながら言葉を交わす。この学園で誰が味方と言われたら、きっとこの人だけだ。友達も皆、兄のことが大好きだったから。

「羽住君に会っただろう。どうだった?」
「……そう変わりはないように見えました」
「そうか。前にも話したと思うが碧が出た後に色々あってね。少しは改善されたと思っていたんだが……」
「少ししか話しませんでしたし。僕に分かることは少ないですよ」

 そう、笑っていうと苦笑が返された。

『碧が出た後に色々あってね』

 叔父さんの言葉。詳しくは聞いていないけど何やら生徒間で改革とやらがあったらしい。内容は特に興味は無かったから知らないけど。

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