お返しは愛と銀細工

 エリシャにプレゼントを確認され、クラルとサエラはカエリアの見舞いにいった。言い訳がましいが、ココまで自分が料理音痴だとは知らなかったんだ。
 慣れないことはするものじゃないと思い知ったよ。

「さて、喜んでくれるかな」

 この日までにあった色々なトラブルを頭の片隅に避け、手元の小さな小箱に視線をやる。
 手作りは自分の性に合わないと理解したので、顔を隠して城下に降り小物屋などを捜し回った。幾つかの候補を選ぶと、更にその中から彼に似合うだろうと思う一点を決めたのはつい数時間前。
 細工屋で見つけた、赤い石のついた細身のブレスレット。銀で作られているので魔除けにもなる。なかなかに良い品物だった。
 見つけた瞬間にこれだと思いすぐに購入した。プレゼント用に包装してもらったそれは、女性向けなのか薄いピンク色を主に水色のリボンが結われている。

「リーズヴァルト様、ジン君ならお部屋にいらっしゃいますので」
「うん。エリシャ、人払いを頼むよ」

 そう頼むと「わかっております」と、苦笑で見送られた。そのことに若干の照れを感じながらも、プレゼントを渡す際には誰にも邪魔されたくはないので特に何も言わずにおく。
 自室へと戻るとジンくんがベッドの上に寝転がっていた。近づいてみると穏やかな寝息をたてるその子の手には、子供用の絵本。文字の勉強をしたいと言った彼に渡した本だった。
 どうやら本を見ながら寝てしまったらしい。彼を起こさないようにベッドの端に腰掛けると、箱を脇に置いて寝顔を眺める。
 あどけない幼さを残す少年らしい寝顔に、笑みが誘われてしまう。惹かれるように手を伸ばして頭を撫でると、思いの他見た目より柔らかさを持つ指通りの良い黒髪を梳いた。

「――……ん、」

 ぴくりと反応をした彼に、起こしてしまったかと手が止まる。けれど、もにょもにょと唇が動いただけで、他には特に反応はなかった。その様子に安堵して、手を退かす。

「起こすのは可哀想だからねぇ」

 絵本を手から抜いて、毛布を肩まで引き上げた。段々と暖かくなってきているが、それでも僅かに寒さの残る気候。もしもジンくんが風邪をひいてしまっては大変だ。

「んんぅ……」

 もぞもぞと動くジンくんを眺めながら、胸が暖かくなる。
 今日はもう、明日の分迄仕事は終えているからジンくんとのんびりしていようと思っていたけど。これはこれでいいかもしれない。
 絵本と一緒に箱をテーブルへ置くと、上着を脱いでジンくんの横へと潜り込んだ。
 暖かい温もりを求めるように抱き寄せる。そうするとジンくんが胸に額を擦り付けてきた。愛らしさに笑んで背に回した腕の力を強めて、柔らかな髪に頬を寄せて目を閉じる。
 健やかな寝息を聞きながら眠りに落ちた。


 先に起きていたジンくんが箱を見つけて勘違いで涙目になっているのを、慌てて宥めることになるのは数時間後のこと。そして誤解が解けて笑顔が見れるのはそれから数十分後。


end

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