3

 ソイツを最初に見かけたのは、天気のいいまさに眠り日和りな日。登校はしたが授業に出るのが面倒で、カバンを枕にして屋上で寝転がってた。
 いつもならそのまま瞼が落ちるけど、その日はなぜか眠くならなくて。

「っやべぇっ!」

 ぼんやりと空を見上げていると、扉が豪快に開かれる音と一緒に焦ったような声。何事かと興味本意にそっちを覗くと、フェンスにしがみついて校庭を眺める生徒がいた。
 ここからだと背中しか見えないが、焦りながらも何かを探すように頭が動いてる。そうしてしばらくすると、やっと目的のものが見つかったのか動きが止まった。
 食い入るようにフェンスに手をつきながら、乗り出す間際の態勢。何があるのか気になったけど、今更近寄るのもおかしいだろう。
 そう思って、その時は後ろ姿を眺めるだけだった。
 一週間に二度。同じ時間に屋上にあがってくるソイツを眺めるのが、俺の気に入りになったと気付いたのは四週間目のこと。
 いつもどおりに屋上に来たソイツは、いつもどおりにフェンスにしがみついていた。
 けど、前とは違ったのが雰囲気。嬉しくて仕方がないというように校庭を見ていたソイツは、なぜかその日はどこか不安定な感じで。不思議に思ったけど、何かあったのだろうとそれぐらいの認識だった。

 それから、次にソイツを見たのは二週間経った日。いつもの曜日に来なくなったソイツを待って、屋上にあがる回数を増やしはじめたある日。ダメ元で来た放課後の屋上でだった。
 扉を開いてすぐ目の前のフェンスに寄り掛かった姿は、影が落ちていてまるではじめて見た日の雰囲気はなかった。
 ソイツは俺が来たことに気付いて校舎内に戻ろうとしたのか、少しふらついた足取りでこっちにむかって歩きはじめる。今にも倒れそうな様子に、思わず声をかけてしまってから後悔した。でも驚いたように俺を見たソイツの、表情に俺も驚く。

 ――まるで、泣く一歩手前の悲壮とあきらめをごちゃまぜにしたような。

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