鳥の恋心と辛味

 約束をしたわけではないけど、辛味が好きだと言っていたリズ。どうしても渡したくて、エリシャさんに手伝ってもらい作り上げた手作りパイ。初めて作ったにしては見た目は上出来だと思う。
 ラッピングを施した小さな箱に入れて自室や書庫を廻るけど、探し人は見つからなくて肩を落とす。

「執務室、かな……」

 残るはその部屋だけなのだけど、俺はそこに入れないからその近くをうろうろと歩いていた。そうしていると通り掛かる人たちに、「頑張れー」とか「大変だろうけどよろしくな」とか、いろいろと声をかけられた。
 いまいちわからなくて、曖昧に笑って誤魔化してしまったのは悪かったかもしれない。

「ジンくん」
「……!」

 箱を抱えたまま落ち着かずに廊下を行ったりきたりとしていると、俺の名前を呼ぶ優しい声。

「リズ!」

 声のする方を向くと捜していた本人。思わず駆け寄ってリズの近くに寄ると、ふんわりと笑って頭をわしゃわしゃと頭撫でてくれる。それが何だかくすぐったくて、視線を落とした。

「ジンくん、迎えに来てくれたの?」
「あ、うん。後、コレ……早く渡したくて」

 にこにこと笑うリズに、腕に抱えていた箱を差し出す。するとそれを見てリズは嬉しそうに破顔した。

「ありがとう。ふふ……食後に頂くね」

 見るからに嬉しそうに箱を受け取るリズに、頬が赤くなるのがわかる。

「えと、お礼とか感謝とか……いろいろ込めて作ったんだ」
「色々?」
「……うん」

 照れ臭くてリズのほうが見れない。でも、伝えるってこのパイを作ってるときに決めたから。
 ドキドキとうるさい胸元の服を掴んで、リズの目を真っ直ぐに見る。

「……リズ」
「うん?」
「いつも……と言うか、この城に来てからずっと……ありがとう、な」

 それから、もう一つの言葉を聞こえるか聞こえないかの声音で呟く。

「……うん、僕もだよ」
「――っ」

 すると、とろけそうな程に甘い声と一緒に、箱を間に挟んだままぎゅうと抱き締められた。


end

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