恋心を詩で語る

 図書委員の僕は、毎週火曜日と金曜日の放課後に当番があたる。本の貸し出し、返却の手続き。あった場所に本を戻す作業。
 それらの仕事が終われば僕の時間。僅かに生徒の波が引いてから、一番奥にある窓際の席に座ってノートと筆記用具を取り出した。
 このノートには、たくさんの詩。短いものから長いものまで、ノートの半分以上は僕の作った詩で埋められている。
 ページを捲りながら、小さく笑う。
 ある時から足されるようになった、僕のではない文字。ページの端に書き足された少し読みづらい癖のあるそれは、詩の感想や日記風味だったり。

「今日も、来るかな?」

 その文字が書かれるのはいつも僕が目を離した時で、誰が書いてるのかは1ヶ月経った今でもわからない。それでもこの細やかな交流は、僕にとっては大切なものになった。
 ほんわかして思わず浮かんだ笑みを手で隠す。

「あ、……本返さないと」

 顔を引き締めるとカバンの中から返却本を取り出す。手続きはカウンターでしないといけないから、カバンとノートはそのままにして本棚の向こうにあるカウンターへ向かった。

 図書館内に生徒が来ることは少ない。というか、僕が図書委員になってから利用している人を見たのは十数人程度だけ。
 少し寂しい気もするけど、この広い図書館をのびのびと使えると思うと、それもいいと考えられるようになった。

「高崎」
「あ、先生」

 カウンターで返却手続きを済ませてから本を棚へと戻していると、後ろから声をかけられた。
 振り返ると幾日かぶりに見た姿。「お久しぶりです」と笑うと苦笑しながら頭を撫でられた。

「今日も頑張ってんなぁ」
「図書委員ですから」

 先生は図書委員の顧問じゃない。でも、週に何回か様子を見に来てこうやって会話をしてくれる。見た目は少し派手だけど、凄く良い先生だと思う。

「今日は何か借りていきますか?」
「そうだなぁ、お薦めってあるか?」
「そうですねぇ……、あ。恋愛物はどうですか?」
「お前が良いと思う本なら借りる。外れは今までねぇしな。さすが図書委員」
「褒めても本以外は出ませんからね」

 軽口を叩きながら、ちょうど隣の棚にあった文庫本サイズの本を先生に渡す。

「はい、お薦めの本です。前後編なんで、読みごたえありますよ」
「おお。サンキュ」

 わしゃわしゃと少し乱暴に頭を撫でられる。痛くはないからそのまま受け入れていると、「そういえば」と先生が呟いた。

「テーブルに広がってたノート、アレはお前か?」
「ノート、ですか?……ぁ、も、もしかして読みました!?」
「え、あ、いや……」
「良かったぁ……」

 少し戸惑ったように首を横に振った先生に、息をつく。危ない危ない。

「大切なノートなのか?」
「まぁ……気にしないでください」

 じ、と見てくる先生に苦笑を返す。後で片付けなきゃ。少し油断してたなぁ……。

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