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ふと気が付いて顔をあげると、辺りは夕日で真っ赤になっていた。いつの間にか校庭には誰もおらず、イヤホンを外しても音が聞こえない。
そろそろ帰ろうか。腰を上げると、地面に薄くて長い影ができた。ぼんやりとその影を見ていると、ギィ、と錆びた音が響く。
「……?」
こんな時間に屋上に誰か来たのだろうか。それなら、早くココから離れないと。今はあまり誰とも会いたくない。
そう思って中途半端に動かしていた足を扉へと向ける。そうすると屋上へ上がってきた奴と鉢合わせしてしまうけど、顔を伏せていれば大丈夫だろうと前を見ずに足元だけに視線をやる。
「……おい」
「……?」
もうすぐ扉というところで、すれ違う寸前の相手に声をかけられた。聞いたことのない声音に不思議に思いながら、少しだけ顔をあげる。
そうすると、空の色が視界に映った。
「……顔色悪い。大丈夫か?」
「あ、……?」
夕焼けの赤い色とは反対の鮮やかな青色に目を奪われていると、そいつが不機嫌そうな表情で睨んでいる。声をかけられてやっと気が付いた。
しかし、言葉の内容はまるで表情とは合ってなくて。一瞬、気のせいかとも思ってしまった。けれど、どうにも真剣な視線に「別に…」と目をそらす。
「……アンタには関係ないだろ」
「……」
「ちょ、何?」
手首を捕らえられて焦る。軽く腕を動かすけど、掴まれた手から離れない。
一体、コイツは何なんだ?
「……そこから」
「?」
「そこから、よく校庭見てただろ。凄く嬉しそうな顔をして」
「は?な、んで……」
なんで知ってるんだ?最後まで言葉にできなくて、中途半端に途切れてしまう。
確かに、時折さぼってはここから校庭を眺めていた。そうすると授業をするあの子が見えたから。
たまたま目が合って、「仕方ないなぁ」って言うふうに苦笑を浮かべる姿を見るのがスキだった。
「――……、」
胸に燻っていた想いを思い出して、ふいに目頭が熱くなる。ぽたり、と地面を水滴が落ちる音がした。