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SIDE:生徒会長


 時期外れの転校生。それだけで目立つソイツは、今や俺の一番の気に入りだ。真っ直ぐさ、笑顔、物怖じしない態度が気に入った。
 その内ずっと傍に置いておきたくて、自分のものにしたくなった。コイツがこの学園にきたのは、俺に会う為だと自負できる。今やコイツは俺のすべてだ。

 ――だからこそ、コイツの傍にいる平凡が気に食わない。

 いつもいつも傍にいて、笑顔を向けられ言葉をかけられ同じ部屋で眠る平凡が憎くてたまらない。こんな感情は初めてで、容赦なく手加減なく平凡に暴行をくわえた。
 まわりの奴ら、生徒会や風紀の奴らも止めず、むしろ率先していた。それが正しいと、自分達こそが正しいと信じていた。
 つい、数分前までは。


「ねぇ、君達。何をしているの?」

 食堂に響いたのは、久々に聞いた声。さっきまで騒いでいた奴等が、乱入者に静まり返る。
 ぞくりと、背を悪寒が這う。その瞬間、理解した。多分、この中で俺だけが。

「貴方、誰ですか?」
「親衛隊の子ぉ?今たてこんでるんだけど〜。見てわかんないのぉ?」
「……見たことない、顔」
「ね、結構綺麗な顔してるから知ってておかしくないんだけど……」

 副会長と会計がそいつに不愉快そうに言葉を投げかけ、書記と補佐が珍しそうにしている。
 コイツ等は知らない。今話いる相手がどんな立場にいる奴か。どんな権限を持っているのかを。

「……柏原、皐月」
「久しぶりだね、生徒会長?」

 合わさった視線は、逸らされない。笑みを浮かべているが、空虚さを含む黒い瞳には怒りが灯されていた。

「僕が出てこないからって、調子に乗ったらダメじゃないか」
「お、俺は、別に……」
「会長ぉ、何、この子知り合いなわけぇ?」

 緩く話す会計を殴りたい衝動に駆られたが、今はそんな事をしてる場合ではない。目の前にいる柏原皐月をどうにか、しなければ。
 何が柏原の怒りを買った?通常コイツは何かあった時以外は、部屋から出てこない。そう、理事長と先代の会長に聞いていた。
 横から会計達に混ざって風紀の奴等も何か言っているが、頭まで入ってこない。それ程、俺は焦っている。この目の前にいる、小柄な男子生徒に恐怖を抱いていた。

「何も喋らなくなったねぇ、さっちー」
「あはは、アレだよ!さっちーが怖いんじゃない?だってさぁ、この中でさっちーの事知ってるの会長とー、むっちゃんだけっしょー?」
「蒼、紅。黙ってろ」
「「はぁい」」

『むっちゃん』

 柏原の両脇に立つ双子が言った言葉が、ふいに頭に落ちてきた。慌てて今まで睨みつけていた平凡を振り返る。そいつは今まで震えていたのが嘘のように、柏原皐月を安堵した表情で見ていた。
 思い出せ、コイツの名前は?なんだ?睦月。そう、呼ばれていた。

「……柏原、睦月」

 そういう事、か。

「気付いた?ねぇ、会長。睦月はね僕の大切な大切な弟なんだ。誰にも変えがたい、この世で一人の絶対的な存在。その子に、君達は何を、したの?」

 何をした?俺達はこの平凡に、何をした?

「君達、この平凡の関係者なんだぁ」
「ああ、だから文句でも言いにきたんですか?」
「お前みたいな奴、俺たちならどうにでもできるんだぜ?」

 痺れを切らしたのか口々に喚く奴等を、俺は止めなかった。俺たちはきっと、この学園から放り出されるだろう。
 ……俺たちは、それだけの事をした。

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