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「……それ、今日の仕事か?」

 心配性な彼は不機嫌そうに眉を寄せていたけど、ふと、視線が落ちて持っていた資料に気が付いた。

「……ん、これで、終わり」
「ふぅん。貸して」

 カバンと一緒に資料の束をリビングへと持っていかれてしまう。そこはいつものことだし資料は見ても大丈夫なものだから、任せて制服から部屋着に着替える為に寝室に入った。
 早めに着替えて、仕事を終わらせよう。

「……知己」
「え?」

 振り返ると強い力で引っ張られて、体が傾いたかと思うと気付けばベッドの上。にやりと笑って見下ろす彼に、困惑の表情を向ける。

「……?」
「……今から知己は俺と寝るの。決定事項だかんな」

 きょとりと見上げていれば、彼は笑みを浮かべたまま俺を押さえつけるようにかぶさって。
 退かそうと思えば、きっと、簡単にできる。でも、服越しに伝わる体温に、無意識に力が抜けてしまう。

「……仕事、しないと」
「だぁめだ。内容を見たけど、アレはどー考えても会長の分だろぉが」
「でも、……今できるの、俺、だけ、だし……」

 まるで猫のように首筋に擦りついてくる姿に癒されながら、否を唱えて頭を撫でる。
 不満そうに眉を寄せると、がぶりと撫でていた手を食べられた。

「……」
「……」

 少しの粘り合い。見つめあって、白旗をあげたのは俺だった。

「……わか、った。少しだけ……」

 心配の色を映す視線に勝てるわけもなく、おとなしく力を抜く。すると嬉しそうに笑って、俺の横に寝転がりぎゅ、と頭ごと抱きしめてきた。

「あまり無理するな」
「ん……わかってる」

 わかってねぇよ、ため息と一緒に聞こえた言葉には何も返さずぎゅ、と抱き返す。
 とくとくと聞こえてくる彼の心音に、耳をすませれば、疲れからか眠気が襲ってきた。
 ゆっくりとした鼓動に深く息をして、目を瞑り彼の胸に頬を寄せる。

「知己、おやすみ」
「ん、おやす、み。……しずく」

 額にキスをされる感触と優しい声に促されるように、ゆっくりと意識を落とした。


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