呼吸を感じて

 充を見つけた日。あれから数ヶ月が経ち、今は季節も春から秋に変わった。

「……なぁ、寒くないか?」
「別に。暖房は効いてるけど」

 粘りに粘って、ようやくいれて貰えた充の部屋。充はベッド、俺は椅子に座らせて貰っていた。……最初は隣に座ろうとしたが、じとりと睨まれて椅子に座った形だが。これでも前進してはいる、はずだ。

 探して探して、ようやく見つけた思い人は完全に俺を自分の中から追い出そうとしていた。自業自得、ということは理解していたが、どうしても許せなかった。浮気をした俺のせいなのは重々承知しているし、おこがましいのもわかっている。
 けれど、それでも俺は充を解放してやることはできなかった。

「充」
「何?」

 名前を読んで応えがある。それだけで幸せだと思うのは相手が充だからだ。たとえ相手が本から顔をあげずにほぼ条件反射で返事をしているとわかっていても。
 俺は椅子から立ち上がり、充の足元に正座する。少しだけ不審そうな視線がこちらに向いた。

「頼みがある」
「……何」

 少し間があいたが聞き返してくれた。これは聞いてくれるかもしれない。

「手を……」
「庄田、少しいいか」

 緊張の為か重くなっていた口を開いた瞬間、戸をノックする音。続いて聞こえてきたのは充の同室者の声。
 思わず顔を顰めるけれど、充は「いいよ」と軽く返事をしてしまった。部屋の主である充が許可を出したのだから、仕方ないとは思うけれど今ここには俺もいるのに。

「なに、幸村」
「ああ。先日の……なんだ、また来ていたのか」
「……うるせぇ」

 ベッドから立ち上がって扉を開けた充に同室者が声を掛けるが、ベッド脇にいた俺に気付いたのか俺と同じように顔を顰めた。きっと、思っていることは不愉快だが一緒だろう。

 ――なんで今、お前がいるんだ。

 バチッ、と俺と奴の間に火花が散ったのは錯覚ではないだろう。

「――……まぁいい。庄田、先日に配られたプリントなんだが、明日が締切だっただろう?渡しに来た」
「そっか。わざわざありがとう」

 充が笑顔を浮かべて紙を受け取った。最近はついぞ見ていない表情。

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