3

 さっきから珪の行動の意味が理解できない。どうしたらいいか、わからない。戸惑っていると、目の前の男は不機嫌そうに顔をゆがませた。

「オマエ、意味わからねぇ」
「っ、ソレはこっちのセリフだろっ!?」

 浮気をしたくせに、まるでまだ付き合っているかのように、接した人に対して嫉妬擬いなことを言う。
 なんで、なんで?わからない。俺には、珪が、わからない。

「なんなんだよ……」

 ぐるぐると身の内をかけまわる困惑と、強くて熱い視線への愚かな期待。それらが溢れるように、目元に涙が滲んだ。

「……おい、泣くな」
「うるさいっ!」

 情けない姿を見られるのが嫌で、顔を伏せる。すると、どこか困惑した様子で珪がぎこちなく髪を梳いてきた。

「頼むから、泣くな」

 今までされたことがない、柔らかく指先だけが触れるだけの撫で方に更に涙が零れた。
 何が悲しいのか、苦しいのか寂しいのか。わけがわからなくなってくる。
 触るなとも思うし、なんでいまさらと恨む気持ちに反して……嬉しい、と喜んでいる自分がいた。

「……キライだっ」
「ああ」
「大キライっ!」
「……ああ」

 嫌いきらいキライ。思い込むようにそれだけを何度も何度も繰り返して泣く俺に、珪は小さな子を相手にするように応える。でも、頭を撫でる手は愛しむかのように優しい。

「……っ、う」
「充」

 制御のできない涙腺に、自分でも戸惑いながら眼鏡を外して零れる涙を手で拭う。

「……充」
「……っ、?」

 涙でぐちゃぐちゃの目元を指で擦っていると、頭にあった手が動いて俺の背中に回った。驚いて肩を押して離れようとしたけど、力では勝てない。
 唸りながら首を横に振ると、背中に回った腕の力が強くなる。

「っ、」
「……悪い。悪かった」

 耳元で囁かれる謝罪に、何について謝ってるのか、何で抱き締めるのかとか。
 色々な疑問が湧いてきたけど、強ばった体から自然と力が抜けた。
 力では適わないから腕の中から抜けることはできない。そんな言い訳を心の中でしながら、目を閉じて珪の胸に涙でぐちゃぐちゃになった顔を埋めた。


end

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