▼ 触らぬ神に祟りなし
「あまね、コレ持っていきな」
寝起きに差し出されたのは、いくつもの綺麗な石で作られたブレスレット。
意味がわからずに差し出した本人を見上げると、不愉快そうに眉間に皺を寄せていた。
整った顔をしているから、その様は背筋を震わせる程。普段は無表情を通しているから、たまにこうやって表情を見せると効果が倍になる。
「持たない場合、今日は部屋から出さない」
「いやいやいや。意味わからんから。遅刻しちゃうしー。何、俺に何か大変な事でも起きるわけ?」
あまりにも真剣に言うから、少し不安になる。今まで弥生がこんな風に言うことなかったし。
「これからの学校生活を無事に過ごしたいなら、僕の言うことは聞いておいたほうがいい」
「……りょーかい」
口元だけで笑いかけられて、反論しようという気がまったくなくなりました。
そんなわけで、今俺の腕には弥生に貰った天然石?で作られたブレスレットが。
よくわからないけど、一応の厄払いとしてらしい。
それからいくつかの弥生との約束が、頭の中をくるくる回ってる。
『一つ目、僕や白宮くん、黒地くん以外の人に話し掛けられても無視する事。
二つ目に、見覚えのない人に出くわしたら何もせずに回れ右。
三つ目、今日は寄り道せずに真っ直ぐに部屋に帰る事。どこかに寄りたい場合は僕に言う事。この三つを絶対に守れ』
わかった?と笑う弥生に、素早く頷いた。
目が笑ってない弥生は怖いです。
そんな事を思い出しながら、遅刻が決定している教室のドアを開けた。
「おはよーございます。遅れたのはハニーに引き止められたからでーす」
「おう、五十嵐。お前、とりあえず今日一日俺の雑用な。放課後あけとけ」
「ムリ。弥生に早く帰るよう言われてるから。1に弥生、2に弥生。3、4に弥生で5に弥生ですが。何か?」
「……五十嵐が妃を溺愛してるのはわかった。後で連絡しといてやるから」
「えー」
なんというか、宏先生はもう少し融通をきかせてくれてもいいと思うんだよ。
そんな先生とのやりとりで失念してた、弥生との約束。
『僕や白宮くん、黒地くん以外の人に話し掛けられても無視する事。
三つ目、今日は寄り道せずに真っ直ぐに部屋に帰る事』
二つを破った事を、もれなく後悔する事となった。
(なぁ、お前名前は?)(…………鈴木宏)(宏か!俺は雅樹って言うんだ、よろしくな!!)(……ごめんね、先生。名前かりちゃった)
END