曲がり角には気を付けよう

「五十嵐ー、放課後に教官室に来るよーに」
「え、嫌でーす」
「来ないと数学の内申が1になるからなー」
「わぁ、職権乱用!ダメだよ宏先生。今の年からそんなことしちゃあ」
「俺に逆らうと来期も1だからなー?」
「帰れー」


 そんなのんびりとした馬鹿なやりとりから時間が経って、今は放課後。
 何の用で呼ばれたかわからないし、何時に終わるかわからなかったから弥生には先に帰ってもらった。
 黒ちゃんと白ちゃんの二人も、最初は残るって言ってくれたけど、待ってる間に襲われでもしたらと弥生と二人がかりで説得して納得してもらった。

「でも俺、呼び出されるような何かしたっけかなー?」

 廊下をぼてぼて歩きながら、呼び出された理由を考えてみる。
 最近は結構良い子だから、なんもしてないはずなんだけどな。アレか、この間の小テストの点が悪かったから補習とか?
 うわ、帰りたい。

「わ、っ」
「…っと、ごめんね?」

 考えながら歩いていると、曲がり角で左側から衝撃。少しぐらっときたけど、そこまでではなかったからすぐに態勢を直せた。
 でもぶつかった子はあんまり運動神経がよろしくなかったらしく、へたりと床とお友達。

「あー……君、大丈夫?」

 へたり込んだまま、ぽけっと見上げてくる黒目黒髪の平凡くんに声をかける。
 そんなに見つめられる程、俺の顔は良くないぞ?見つめるなら白ちゃんをおすすめする。じ、と見るとぽやんって可愛く笑うから。
 反応を見るなら黒ちゃん。会話のテンポも良いし、からかうのが楽しい。

 それはさておき。

「聞こえてる?もしもーし?」

 ぴくりとも動かないその子に、どうしたらいいかわからずとりあえず前にしゃがんでひらひらと手を振る。その間視線だけは俺の顔にがっちり固定。
 なんだコレ。少し面白いかも。

「あ、」
「お?なんだしゃべ「うわぁぁあっ!!!!」

 いきなり叫ばれたかと思ったら、身軽に立ち上がってそのまま走り去って行った。
 おいてけぼりをくらった俺は、そのままその背を見送る形になるわけだけど。

「……えー?」

 思わずポケットから携帯を取り出して弥生にかけたのは、仕方ないと思う。


(どうせ昔に何かした相手だろ)(違うよー?多分!)


END

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