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 身体が、動かない。
 耳元で驚いた先生に受け答えするのは、久しく聞かなかった低音。腰を抱く力強い腕は、俺が欲しくてしかたなかったもの。

「……珪(けい)」
「それじゃ、コイツ借ります」
「おお。庄田、ちゃんと案内してやれよー」

 ひらひらと手を振る先生に、珪は軽く頭を下げて俺の手を引いて歩きだした。元恋人との再会に感動より、ただただ驚きに頭が追い付かず。手を引かれるままに、後をついていくことしかできなかった。


* * * * *



 時々周りの視線を感じながらも手を引かれて歩く。付き合っていた時はこんな風に、手を繋いで歩くなんてことはしたことがなかった。別れてからまるで恋人のような行動をする彼に、どうしようもなく忘れようとしていた思いが顔を出す。
 広い背中を見つめながら、掴まれた手が暖かくて、温かくて。また、勘違いをしそうになる。

「……なぁ、離してよ」
「……」
「何でここにいんの?」
「……」
「誰か目当ての奴でもいたのか?……悪いけどそんなに友達いないから橋渡しとかはできないからな」

 思いつく限り言葉を重ねるけど、段々と人気の無い静かな場所に向かっていく足は止まらない。声をかけることを諦めて、大人しく無言でついていく。
 きっと、何かあったんだろう。あの可愛い子に振られたのか、もしくは喧嘩でもしたのか。でも、それくらいで転校する奴じゃないはず。少しの間とはいえ、付き合っていた人のことがわからなくて気分が落ちる。

 人気の無い、裏庭まで出てからようやく足が止まった。珪は俺を壁に押し付けると、逃げられない様にか顔の両横に手をついた。先程まで見えなかった顔を見上げると、どことなく疲れたような表情。

「……珪?」
「何だ」

 ここに来てようやく受け答えをする気になったのか、俺の声に反応してくれた。でもその後に続く言葉が出てこなくて、口を閉じる。
 聞きたいこと、言いたいことはたくさんあるけどどうしても珪を目の前にすると言葉にならない。

「……アイツとはどういう関係だ?」
「アイツ……?」

 アイツって、誰の事だ?わからなくて首を傾げていると、苛立ったように「オマエの頭撫でてたやつだよ!」と叫ばれた。

「頭……?」
「アイツは何なんだ?」

 それって、幸村のことか?なんで今、幸村の名前がでるんだ?そんな嫉妬紛いな台詞言われても、反応に困る。
 自分たちの関係は俺が別れを言い出す前から、コイツが浮気した時点で終わっていたはずだ。いったいどうしてそんな事を言うのかわからない。

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