狭間の鼓動

 ――さようなら。


 そう愛した人に別れの言葉を告げて、2ヶ月が経った。中学生だった俺は高校生に。度の入ってない眼鏡をかけて、髪の色も茶色から黒へと変えた。
 目立たないよう思い付く限りの事をして、平凡で平和な高校生活を送っていた。

「庄田」
「何?幸村」

 そして高校に入ってはじめてできた友人は、男前で格好良い。真面目を表したようにきっちりと制服を着る姿は、目立つというわけではないけど自然と目が行く程。

「平田先生が『転校生が来るから案内頼む』、だそうだ」
「転校生?この時期に珍しいね」
「そうだな。まぁ、何かしらの理由があるんだろう」

 幸村が苦笑を浮かべながら肩をすくめた。そんな仕草も絵になるのは、少しだけ同じ男として悔しいかもしれない。

「それで、その転校生はいつくるの?」
「今日。今から迎えにくるようにと」
「今から?……わかった」

 本当に急だ。せめて昨日あたりから教えておいて欲しかった。

「……学級委員も大変だな」
「仕方ないよ。なってしまったのは仕方ないし」
「そぅだな。……頑張れよ?」
「うん」

 幸村は俺の頭を撫でて、部活に向かっていった。
 さて、転校生くんを迎えに行こう。彼にはこの学園の特色などを説明しないと。少しだけ面倒だけど、引き受けたからにはちゃんと仕事を全うしないとね。

「転校生、か。どんなやつなんだろ……?」

 こんな時期に珍しいものだ。家庭の事情とかいうやつだろうか。

「失礼します」
「おう、庄田!」

 職員室のドアを開けると担任の先生が爽やかに笑っていた。その手元にはつい最近、減らしたと言っていたもの。

「……先生、タバコ」
「転校生なんだがな」
「聞いてます?」

 軽く流した先生はほい、と一枚の紙を俺に。思わず受け取り書かれている内容に目を落とす。

「……え?」

 そこに並べられた名前に目を疑う。この名字と名前。間違えようが、ない。
 どうして?あの人の近くにいた人たちには口止めをしたのに。彼らが僕の話をするわけがない。それなら、これは、偶然?

「おい、どうかしたか?」
「ぁ、い、いえ。何でもないです」

 首を横に振って、書類を先生へと返した。訪れた緊張を肯定するように脈打つ心臓の音を聴きながら、絞るように声を出すに口を開く。

「すみません、俺、少し用事が……」

 言い掛けた瞬間、ぐい、と腕を引かれた。はっと気付くと懐かしい香りと、体温に包まれていて。

「……ぁ」
「久しぶりだな、充」

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