生徒会室にて

 『生徒会』。この学園ではある種のアイデンティティーとなる、学園組織。
 当代で第十二代目となるその組織をまとめているのは、会長の龍ヶ崎尊。彼には人生初と言える程に困難な悩みがあった。

「尊!仕事止めてこっちにこいよ!」
「……あ?ああ。なんだ、俺が傍にいなくて寂しくないのかぁ?」
「な、そんなわけないだろっ!」
「そ、そうか……」

 それは生まれて初めて愛しいと思った相手の扱いだ。なるべくなら随時側にいない。離れたくない。そう思うけれども、仕事や親衛隊の相手をするのに手間取られてしまい上手く話しかけれらないのだ。
 ……断じてヘタレではない。そんな汚名被せられてたまるか。

「……あ?」

 賑やかというより騒がしいに近い会話を聞きながら書類にサインをしていれば、机に置いてあった携帯が震える。ペンを置いて携帯を開くと、画面に表示されている久しぶりに見る名前に思わず笑みが浮かぶ。
 他の奴らがこちらに気が付いていないことを視線で確認してから電話に出た。

「……何のようだ?」
『愛しいあの子にアタックできないヘタレで健気な会長様に素晴らしいお知らせですよー』
「……相変わらずだな」
『会長様も変わらず俺様何様でいらっしゃるよーで何よりです。親衛隊の子達も狂喜乱舞獅子奮迅です』
「獅子奮迅の意味、わかってるのか?」
『知りません。使いたかっただけです』
「あのなぁ……」

 ため息をつくが、楽しげに口元は歪められ電話の相手との会話を楽しんでいた。リラックスしたように椅子に深く座りなおすと、目の前の光景を眺める。
 自分の親衛隊とは思えない程に奔放な親衛隊長、片桐美代。入学当初から抱きたいランキング一位の座から降りない、それ程までに愛らしい見目の彼は性格が変わっていた。
 犬や猫、正体不明な人間――現在は双子の親衛隊隊長をしている奴だ――までを拾ってきては自分の部屋で飼うという奇行を行うのは、創立以来彼が初めてだろう。それに加え、面白そうだからと生徒会会長の親衛隊へ入隊し、隊長就任時には龍ケ崎本人に対して、『俺様何様会長様、本日はお日柄もよく何よりです。あ、セフレ制度と『今日の宿題』制度は廃止したんで。宿題くらい自分でやってくださいな。お馬鹿さんになっちゃいますよー』と愛らしい笑顔で言い放った。
 後にも先にも、龍ケ崎に対してそのような言動ができたのは片桐美代だけだった。それ以降、何かと絡んで来るようになった美代に友情らしきものが芽生えてきたのは、仕方ないことだったのかもしれない。

 今では勝手に部屋で寛いでいたり、帰れば夕飯ができていたり。美代と出会う以前の自分では考えられないほど、健康的に学園生活を送ることとなった。
 その教育の賜物だろうか、今現在では職務を全うしていない生徒会の中で唯一仕事をしているのは会長である龍ケ崎だけだった。

「で、何の用だ?」
『今日のお夕飯のお知らせです。リクエストにお応えしてカレーハンバーグですよー』
「マジか」
『激マジです。転校生くんLOVEなのはいいけど、とっとと仕事を片付けてきなー』
「……わかった」

 どちらにしろ今日はこれ以上話せそうにないしな、と弱音混じりに愚痴を吐けばからかうように「可哀相にねぇ」と笑って美代は通話を切った。
 龍ケ崎は携帯を閉じると書類の束と騒ぐ他の役員を見て、周りに恵まれないと小さくため息をついた。


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