はじまりは空き教室

 ある学校のある教室。昨年とある暴行事件があってから、【開かずの教室】と呼ばれるその教室に、テーブルを囲んだ数人の人影があった。
 テーブルの上には、上流階級のお茶会を彷彿とさせる紅茶や輸入品の菓子が所狭しと並べられている。その一つであるパンナコッタをスプーンで食べるのは、中でも一際目立つ紫に髪を染めた少年。
 彼はゆっくりとした動作で甘味を口に運びながら、手元の生徒資料を眺める。

「みよぉ、僕達のとこはだいじょぶだよー」
「俺のとこも満場一致でした」
「同じくですぅ!」
「……ん、」
「そっか。うん。よぉし……なら、コレで決まり!今後この件に関しての反対は聞かないし、文句言ったら僕直々に躾直しだからねー」

 4人の言葉に少年――美代(みしろ)――は満足そうに笑う。
 その手から離れ、テーブルに落とされた資料。そこには、数人の生徒達のプロフィールや素行が記載されていた。

「副会長の三井 廉司(みついれんじ)様」
「はぁい!副会長親衛隊隊長、城崎直(しろさきなお)が担当しまぁす」

 緩い笑みを浮かべた少年が、一枚の資料を手に取った。添えられた写真を細い指先でなぞると、楽しげにコロコロと笑う。

「会計の吾妻 輝久(あずまてるひさ)様」

 その様子を気にせずに美代は続けて名前を口にする。それに反応したのは、少し困ったように眉を下げた青年。資料を手にすると、小さく頷く。

「書記、近藤 潤(こんどうじゅん)様」
「……俺が担当です」

 ため息をついた青年が、資料を手に取る。まるで何かを諦めたような様子に、美代は苦笑して「頑張って」と声援を送った。

「次、補佐の早良 美優(さわらみゆ)様と美紗(みさ)様」
「僕です、美代さまぁ」

 資料を二枚手にすると、少年は無邪気に笑った。その笑みの邪気の無さに、美代はまるで親のような兄のような目を向けると、最後の資料を手にする。

「では、会長の龍ヶ崎尊(りゅうがさきみこと)様は僕の担当だね」
「会長はへたれだからぁ結構簡単なんじゃなぁい?」

 直からのからかうような視線に、美代は笑みだけを返した。

(……だからこそ、面倒なんだけどねぇ?)

 憂いを帯びた表情で小さくため息をつくと、美代は二枚の資料を手ににこにこと笑う滉(あきら)に視線をやる。滉はそれに気が付くと慌ててカバンから、紙を取り出した。

「美代さまぁ、これが平凡くん……えぇと、竹ノ内将(たけのうちまさる)くんから得た、転校生くんの情報ですぅ」
「ありがとう、さすが滉だね」

 差し出された紙を手にすると、美代は誉めるように滉の頭を撫でる。少年は嬉しそうに笑うと、猫のように「にゃあ」と鳴いた。

「ふふ、じゃあ始めようか。僕達の敬愛する生徒会の《改革》を」

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