*day_6_requiem*


どうか、間に合って──



 時折、意識が飛ぶことがあって。何となくだけど、そんな時は、生霊としてのこの姿も消えているんじゃないかと感じて。
 ──やっぱり、今のままではいられないことは明白で。それが、躯に戻れるだけなのか、それともこのまま消えてしまうだけなのかは全く分からないのだ。タイムリミットがどれくらいなのかは不明だが、何も告げずに総悟の前から消えてしまうのだけは避けたい。
 再会を願って死を受け入れるしかなかった前世だったけれど、形はどうあれ、こうして再び心を通わせることが出来たことで意味はあったのだと伝えなければならない。……総悟の罪の意識を、これ以上深くさせないように。


「総悟ーっ!」

 思い立って、総悟の部屋に飛び込んだ私だったが。そこには人の気配はなく、メモ書きのような書き置きが机の上にあるのに気づいただけだった。

「──講堂で、伯母さんと待ち合わせ? 伯母さん、って理事長だから……あのバカ! 1人でノコノコ会いに行くとか危ないアル!!」

 私を突き落としたかも、なんて憶測は別として。理事長が総悟に、今まで加えてきた危害は間違いないというのに。信じてあげて、とは言ったが無防備にも程があるではないか。
 講堂までなら、すぐに飛んでいけそうだ。総悟の身を案じながら、焦る気持ちを抑えてそのまま窓から屋外へ飛び出す。

 お願い、無事でいて──! これでは、前世と同じになってしまう。総悟を助けに走って、結果的に庇って命を落とすことになってしまったあの時を繰り返すような……。

「コレって、因縁っていうものアルか?」

 どうして私たちは、平穏に生きていくことが出来ないのだろう。これもまた、運命だとでもいうのだろうか? だとしたら、運命の神様は意地悪すぎる。
 意を決して、今までにない速度で宙を飛び回る。これまでは気持ちの問題でなるべく建物や動いてるモノをすり抜けて移動しないようにしていたのだが、こうなったら早ければ何でもいい。とにかく、一刻も早く総悟の元へ行かなければ……!
 ふと眼下を見れば、ゴリが車を停めて飛び出してくるところだった。向かったのは、講堂の方面。多分、総悟の書き置きを見たのだろう。私同様に、血相を変えている様子から簡単に予測出来る。

「ゴリが気づいたんなら、総悟に何かあっても助けられるかもしんない。後は最悪の事態が起きないことを祈るだけネ……!」

 猛ダッシュするゴリに続くように講堂に飛び込む。ステージ上、真ん中に鎮座するピアノの下に倒れる総悟の姿を確認し、声にならない悲鳴を上げてしまった。

「総悟っ!! おいっ! 大丈夫か!?」

 即座に総悟を抱き起こすゴリを、震えながら見守るしか出来ない。

「っ……近藤さん?」
「気づいたか!?」

 ゲホゲホッ、と何度か咳を繰り返し、総悟はさするように首もとに手をやる。首には、何かで締められたような痕が赤くハッキリ残っていて。一歩間違えば窒息死していたかもしれない事実が見て取れた。

「……母さんが、やったのか?」
「近藤さん……。これは、その、」
「庇う必要なんかないんだ、総悟! こんな……痕がつくまでっ。下手したら死んじまってたかもしれないんだぞ!?」

 ゴリは総悟の赤くなった首もとを痛々しそうに見つめ、深く溜め息をつく。

「俺が悪かったんだ。母さんの異変を知りながら、しかも凶行の矛先がお前に向いていたことにも気づいていたと言うのに……やっぱり、トシの言う通り、強引にでもお前をヨーロッパに行かせてりゃよかったのかもしれん」
「あー。土方さんがヨーロッパに拠点移すの執拗に迫ったの、このせいでもあったんですかィ。姉さんに余計な心配かけたくないから黙ってたのに、あのクソマヨラー。……近藤さんは、悪くないです。俺も、伯母さんがおかしいことには薄々気づいてたのに、知らないフリしてたんで」

 ふと、総悟からの視線を感じて目線を合わせる。ゴリに気づかれないようになのか、小さく口を動かして──ご、め、ん?

「何で謝るアルか!? それより、総悟が無事でよかったネ……」

 思わず涙ぐんでしまい、総悟はそんな私を見て困ったように顔を歪めた。

「──どうして?」

 その時。
 ピアノの陰から、小さく呟く声が聴こえ。私も含め、3人が同時に慌てて振り向いた。

「ねぇ、何で? あなたまで桃子の味方をするの? 勲は、血が繋がってなくても私の味方になってくれるって言ったじゃないっ!」
「母さんっっ!?」

 今にも総悟に飛びかかりそうだった理事長を、ゴリが力づくで押さえ込む。総悟は何故か、逃げもせずにそんな理事長を黙って見ているだけで。

「お願いだ、もう止めてくれ、母さん。桃子さんは……総悟のお袋さんはもういないだろう!? 心を閉ざさないで、よく見るんだ。目の前にいるのは、甥の総悟だろう?」
「総、悟──ああ、そうよね。お前は、弟の勝悟と桃子の子供だわ……いいえっ。だってそこから、違ってるのよ! そうじゃないのよっ……離しなさい、勲っ」

 理事長の表情が、幼く見えたり元に戻ったり、目まぐるしく変化する。言動も、予想通りというか──何だか訳が分からないことを口走っているようで、本人は全くそれに気づいていない。

「伯母さん、いいから、続けて。俺に言いたいこと、母さんに言いたかったこと、全部ぶちまけて欲しい」
「総悟っ!? お前、何を……」

 また首絞められんのは困りますけど、とおどけて見せたが、それはシャレにならない冗談だと思う!

「言いたいことですって……? それを訊いて、どうなるというのっ。私が知らなかったとでも思ってたの? 周平さんをあなたから奪ったと思ってたけど、そのことに罪悪感すら持っていた私を陰で笑っていたんでしょう!?」
「やっぱり、そのことか」
「やっぱりって何よ!? 認めるのね……桃子。やっぱり、総悟はあなたと周平さんの子供なんでしょうっ!?」
「なっ……母さん、何てことを言うんだ!」

 驚愕で声も出ない私と、取り乱すゴリに対し。総悟はどうやら想像通りの言葉だったらしく、いつもの無表情のまま。

「俺も、心ないマスコミのゴシップネタで流石に傷つきはしたんですよ。死んだ両親を愚弄するにも程がある。しかも、最愛の夫と弟と親友を一度に失った伯母さんに、追い討ちを掛けるかのような酷い嘘だ」
「嘘、ですって? それこそ嘘だわっ。そうやって死んでも私を馬鹿にするのっっ!?」

 理事長の発言は、誰に向けられているのか……気が触れて、総悟をお母さんである"桃子さん"と間違えているのかと思っていたが、そうでない時もあるようだ。

「馬鹿になんかしてませんって。嘘は嘘なんだから、仕方ないでしょう? 俺は、紛れもなく、沖田勝悟と桃子の血を引いた子供ですよ。姉さんと俺がよく似てるって、昔から伯母さんも言ってたじゃないですか」
「確かに言ってたなぁ。実際似てるもんな、姉弟揃って桃子さんに……」
「ええ、そう。桃子に似てるの、2人共。父親であるはずの勝悟には似てないでしょう? ああ、まさかミツバまで周平さんの子供だというの!?」

 うわ〜。逆効果だったんじゃないだろうか。総悟は大きく溜め息をついてるし。

「だから、有り得ないんですよ。そんな嘘、信じること自体間違ってたんですから」
「何でそんなに自信たっぷりなんだ、お前? 何か、証拠でも掴んだのか?」
「簡単なことですよ」

 ニコリ、と営業スマイルを見せると、総悟は床に落ちていたらしき封書を拾い上げる。中から出てきた書類には──。

 DNA鑑定、の文字があった。




久しぶり更新、毎度のことになってきて重ね重ね申し訳ないです!
いやーでもホントに誰か更新待ってんのかな?反応ないから分かんない(^-^;

あ、展開はベタですが。ひとまず次回に引っ張ります。
とにかく、完結まで突っ走るのみ!(笑)

'12/07/01 written * '12/07/03 up



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